一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

マザーウォーター

私的評価★★★★★★★★★★

マザーウォーター [Blu-ray]

 (2010日本)

 あしたへは、ダイジなことだけもってゆく。

 ウィスキーしか置いてないバーを営むセツコ(小林聡美さん)、コーヒー店を営むタカコ(小泉今日子さん)、豆腐屋を営むハツミ(市川実日子さん)、街を散歩しながら「今日も機嫌よくやんなさいよ」と声をかけて回る老女マコト(もたいまさこさん)、セツコのバーに出入りする家具職人のヤマノハ(加瀬亮さん)、銭湯の主人オトメ(光石研さん)、銭湯の手伝いをするジン(永山絢斗さん)、そして皆が世話をしている乳児ポプラ(田熊直太郎さん)。京都、静かで力強い白川の水の流れに引き寄せられる8人の日常。


 水辺の路地を散歩したり、ベランダや川べりで風を感じたり、ベンチに座って出来立てのトウフや手作りのたまごサンドを食べたり、ひとり分だけの食事に手間をかけてみたり、ベランダのテーブルでワインと手作りのポテトグラタンでちょっと贅沢なランチをしたり、銭湯の店先のベンチでお菓子をつまみながら話をしたり、ホントにゆるゆるな日常だけが描かれています。ただ、その日常は、とっても心穏やかで、心豊かな日常です。

 登場人物の過去も、現在も、特に明かされないところや、会話の内容に前提の説明がなかったりするところなどは、リアルな人付き合いを実際に体験している感じです。
 その中で、乳児のポプラが、この一見何もストーリーが無さそうな映画の中で、唯一不思議な存在になってます。なぜか、登場する大人たちみんなが抱っこして散歩したり、オヤツをあげたり、寝かしつけたりして面倒をみるようになっていきます。たぶん、オトメが抱っこして散歩してるのが一番多いので、彼の血縁者でしょうが、タカコに歳を尋ねられたとき、「1歳半ぐらいかな?」って曖昧に答えちゃったので、子どもではなく孫なのかな?
 そう思って見直すと、映画が始まってすぐ、川べりで幼児と若い女性が座ってるのが映って、そのままカメラが空に向けてパンし、いきなりタイトルが出てくるので、すっかり見逃してたんですが、これがポプラとお母さん(伽奈さん)なんでしょうね。で、最後に声だけが、ポプラを迎えに来るという演出で「?」って思ったんですけど、あれが伽奈さんの声だったんでしょう。


 たびたび登場するおいしそうな食事のために、フードスタイリストの飯島奈美さんという方が、スタッフに付いてらっしゃいます。セツコの手作りサンドウィッチ(メンチカツかコロッケ?)、マコトの作るソラマメ入りの野菜かき揚げ、お味噌汁、たまごサンド(たまごはオムレツ)、タカコが作るポテトグラタン(タラやアスパラガスが入っている)、みんなおいしそうでした。あと、セツコが水割りを作るシーンと、タカコがコーヒーを淹れるシーンが何度も出てきますが、端正な佇まいで手際よく作るのを、その都度丁寧に見せるあたりにも、なんとなく食への拘りを感じますね。

 ウィスキー・バーもコーヒー店も、BGMが流れてないんですよね。そこが妙に落ち着くんだけど、逆に気持ち悪いと感じる方もいらっしゃるかも知れません。あ、コーヒー店は、かすかに前を流れる川のせせらぎの音が聞こえてますね。バーも店先の小さな庭に出ると、小鳥のさえずりや風の音が聞こえます。そこがまたイイのですが、まぁ、ぜいたくな感じです。


 ボクらは生きていくうちに、いっぱいつまらないことに拘って、いつのまにか自分自身を雁字搦めにしてしまってるんだなぁと、気づかされる映画です。ジンに向けて「分析ばっかりしてても仕方ないんだよ」というマコトのセリフが、けっこう刺さりましたw 居なくなった先輩のことで悩むヤマノハに、バーでセツコが言ういろんなセリフも、「あぁ、そうだね。そう思ったら、いくらか気が楽になるよね」って思いました。


 やっぱり、いろいろと考えさせられる、深くてイイ話、ステキな作品ですよ。


●監督:松本佳奈 ●脚本:白木朋子、たかのいちこ ●フードスタイリスト:飯島奈美