一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

犬神家の一族

私的評価★★★★★★☆☆☆☆

犬神家の一族 通常版 [DVD]

 (2006日本)

 つらいところです。

 角川映画30周年記念作品のために、角川映画第1弾のリメイクを同じ監督、同じ主演で実現…30年も経って、名作の誉れ高い作品を同じ監督が撮り直しできる、ある意味、すごい偉業ですよ。この作品のあと、市川監督はお亡くなりになったんですから。よくぞ記念事業に間に合った、と賞賛せねばならないところでしょう。

 しかし…。

 その第1弾が無ければ、本作は昨今の邦画の水準を大いに上回る仕上がりだと、個人的には思うのですが…あまりにも第1弾の軌跡を忠実になぞるようにして撮り直されていることで、どうしても前作との比較をしてしまわざるを得ない自分がいるワケで…いや、無粋なこととは思うのです。しかしDVDで見るまでは、ここまでとは思っても見なかった、むしろ、新しい作品としての期待の方が高かった分、ショックを受けたようなところもあります。まるで、別の監督が市川監督作品へのオマージュとして、同じシーンを繰り返し取り上げているとしか思えない、そんなにもディテールの演出で前作を踏襲する部分が多すぎて、どうかすると、市川監督が時間切れで妥協を繰り返した末の産物ではないかと疑ってしまうような、そんな気がして仕方なかったのです。話題作であるだけに、賛否両論あるでしょうねぇ…。



 無粋と分かっていて、気になった点を挙げます。

 CGの多用は、こんな作品でも見受けられるようです。セットの窓ガラスに映る風景などは方便として仕方ないとしても、セットを作るお金が無いのか作るのが面倒なのか、犬神御殿だとか那須神社だとか、旧犬神邸宅だとか、古い建物の「物言わぬ画像」には、正直うんざりしました。そよとも動かぬ木々などから、画面から「生命感」が抜け落ちているようにしか感じられません。不気味ですらあります。安易なやっつけ仕事と見受けました。湖の向こうに見える犬神御殿のミニチュアも、背景の緑から浮いてて、昭和時代の特撮番組を思い出してしまいました。

 ロケが少ない分、セットの美術さんは、がんばっていたと思います。ただ、そのがんばりを台無しにするようにCGを挿入していると思われるシーンが2箇所ほどありました。照明の反射が不自然に見えたのですが、気のせいだったら申し訳ありません。CGを使っていることが分かったための過剰反応かもしれませんが、そういう気分にさせるCGの使い方にも問題を感じます。

 全体的に薄っぺらい印象?---例えば前作では、遺言状公開の場面は怒号が飛び交い、セリフが被さり、すざまじい修羅場というか愁嘆場というか、そんなシーンになっていました。本作では多少のセリフの被りはあるものの、出演者個々人のアップをカットで挿入したり、セリフが極力被らないようにしたりするなど、どちらかというと、出演者を際立たせるような変な気遣いみたいなのを感じるほど、場全体の躁が感じられない仕上がりでした。もしかして、通しで撮っていないのでしょうか。けっこういろんなシーンで、感情の高ぶりがブツ切れでどっかに消えてしまうような印象がありました。その辺も前作を知らなきゃ、気にならないレベルなのかも知れませんが…。

 あまり個人のダメ出しは「自分、何様!?」って気がしてイヤなんですが、ふたりだけちょっと言いたいことがあります。

 まず、最初にキャストが発表されたときの第一印象で、松嶋菜々子さんの珠世はキツイなぁ、と思いました。実際映像で見てみて、本来演技のうまい方なんでしょう、無難にこなしているとは思いましたが、こればかりはどうしようもない…デカ過ぎます! 画面に並ぶと、男どもよりむしろ高いシーンもたびたびあり、奥菜恵さんとのシーンはあまりにも身長差が際立ってしまい、ちょっとあっけにとられてしまいました。いろんな珠世を見ましたが、画面から高圧感を感じる珠世は初めてでした。

 あと、これは市川監督の意図あっての演出なのかどうか分かりませんが、2度に渡って、「人を小馬鹿にしたような薄ら笑いを浮かべている」としか見えない表情のアップが映し出されています。いきなり冒頭の佐兵衛臨終間際で、佐兵衛が古舘弁護士を指差した直後、そして事件解決編で助智殺害の経緯が語られて梅子が絶叫した瞬間、不意に佐兵衛の遺影が落ちてガラスが割れた直後、この2シーンは、痛ましい表情をするならまだしも、なぜそんな薄ら笑いになるのか、見た瞬間芽生えた違和感を拭えず、気になって仕方がありませんでした。もし、演出意図があってのことなら、珠世は存外計算高い女であるという印象を強める効果を狙ってのことでしょうか? 考えすぎかも知れませんが、前作の島田陽子さんの珠世があまりにも儚げで清楚な印象の女性に映ったので、ホントはそうじゃないんだ、ということを言いたかったのではないかとも思えます。だって、あの遺言状、珠世が遺産相続権をハナから放棄するつもりになれば、事件は起きなかったような内容です。本当は珠世が事件が起きるように仕組んで…ま、いっか。

 で、もうひとり。深田恭子さんなんですよ。前作の坂口良子さんが演じた女中はるの役だったワケですが、もうダイコンもいいとこでしたね。滑舌がいいだけに、余計腹立たしさを覚えました。棒読み調のセリフ回しは彼女の特徴ですから仕方ないかもしれませんが…間が悪いよなぁ。いかに坂口さんが、演技がうまかったか再確認することになりましたが、一番いただけないと思ったのは、若林の死体発見のシーンですよ。まず、台所でゴキブリを見つけたかのようなゴツイ絶叫…そして、ただただボサッと突っ立っているときの横顔のひどいこと…バス停に立って通勤バスを待ってるかのように、何の感情も緊迫感も伝わらない表情に、ものすごい違和感を感じずにはいられませんでした。ひどすぎます。


 あぁ、ずいぶん長くなってしまいました。長くなりましたが、最後にもうひとつだけ。

 老いてふっくらした「金田一先生」が、たびたび「金八先生」に見えて仕方ありませんでした。

●監督:市川崑 ●原作:横溝正史(小説「犬神家の一族」)