一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

幸福のスイッチ

私的評価★★★★★★★★★★

幸福のスイッチ [DVD]

 (2006日本)

 和歌山県田辺市、海辺の小さな田舎町にある「イナデン」は、地域の人達に親しまれている町の電気屋さんです。社長の誠一郎(沢田研二さん)は、「お客様第一」をポリシーに掲げ、顧客の修理依頼などのアフターサービスに奔走しますが、家族よりもお客を大事にするほどの仕事ぶりから、3人娘の次女・怜(上野樹里さん)は父に苛立ちを覚えます。母が亡くなったあとも、仕事ぶりを変えようとしない父に反発し、怜は高校卒業後に単身上京、美大を卒業し、イラストレーターとしてデザイン事務所に勤務していました。ところが、思うような仕事を任されない苛立ちから会社の上司と衝突した怜は、発作的に仕事を辞めてしまいます。そんな折、三女の香(中村静香さん)から、妊娠中の長女・瞳(本上まなみさん)が倒れて絶対安静との手紙が怜の元に届き、怜は急遽和歌山に帰郷します。ところが実際に入院したのは父の誠一郎で、アンテナ修理中に屋根から落ちて、1ヶ月の入院とのことでした。しぶしぶイナデンの仕事を手伝うことになった怜でしたが…。


 前半は、プライドばかり高くて甘ったれの怜が、イナデンの仕事に関わるさまざまな人間関係にうんざりし、父の浮気疑惑まで勃発して、苛立ちを募らせながら、自分のダメさ加減を持て余し、周囲に当り散らし、果ては職場放棄までしてしまうダメダメなくだりが描かれます。上野さんの演技のはまり具合もあって、「あぁ、怜ちゃん、ほんまダメダメやねぇ…」と、思わず口にしてしまいそうなほど、よく出来ています。浜辺で「最悪、最悪…」と自分自身への苛立ちを込めてくだをまく上野さんの姿が、とてもリアルで、ちょっと自分自身のダメなときと重ねてしまいました。

 そして後半、お客さんのちょっとした一言から、自分の仕事で感謝されることに心を動かされ始めた怜が、自分の甘えに気づき、前向きに仕事をこなしながら、変わっていくくだりが描かれます。

 前半のダメさ加減が際立っているせいで、後半の怜の変わっていく過程は、爽快さを覚えます。三姉妹の性格をきっちり描き分け、三人三様に家族や仕事に対して感じていることの違いを明快に見せてくれるシナリオと演出、丹念に、そして実に巧みに作り上げていると思いました。非常によくできたシナリオですし、それにしっかり応えたキャストの演技力が光る作品でした。合間に挿入される田辺の風景や、ちょっとした家具や小物の画像もなかなか美しく、女性監督らしい心配りを感じました。

 ぎくしゃくした関係を修復した、父と怜とが交わすラストの会話は…実に爽快です。満点にしときましょう。

●監督・脚本:安田真奈