一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

殺人容疑者

私的評価★★★★★★★★★☆

殺人容疑者 [DVD]

 (1952日本)

 まだ戦後復興途上の東京・渋谷の高台の草原で、胸を刃物で刺された男の死体が発見される。男のズボンのポケットに残っていた飲み屋のマッチ箱から、女将の家を訪ねた刑事が発見したのは、畳に横たわる女将の変わり果てた姿だった。死体はやはり胸を刺されており、同一犯の犯行が濃厚と思われた。女将の部屋を捜索した刑事や鑑識員たちは、湯飲みの指紋、枕に付着した1本の毛髪やポマードのしみ、タバコの吸殻、果ては1cmほどの細い繊維の切れ端までを採取し、科学的捜査で犯人に迫ろうと試みる。やがて、地道な聞き込み捜査と科学的捜査により、捜査線上に一人の男が容疑者として浮上するが、その男も保釈中に姿をくらまし、またしても死体となって発見されることに…果たして、後手を踏む捜査陣は、殺人容疑者を追い詰めることができるのか…?


 当時まだ一般的に馴染みがない科学的捜査の手法を、ドキュメンタリー調のナレーションが語り、刑事たちの地道な聞き込み捜査は徹底した街頭ロケで追いかけるという、リアルな迫力に満ちた刑事ドラマ。

 今でこそ有名な俳優陣も、リアリティを表現するために無名な若手舞台俳優を抜擢した結果、丹波哲郎さん、土屋嘉男さんの二人が本作で映画デビューという具合。特に丹波さんが、切れ味鋭いナイフのように痩せた長身と、精悍さを湛えたソリッドなマスクで画面を席巻し、見ていてため息が出るほど、圧倒されます。

 画質・音質ともけっこう耐え難いほどひどい状態と言えますが、製作者・出演者の熱い魂を感じる、傑作です。

●監督:鈴木英夫船橋比呂志