一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

容疑者 室井慎次

私的評価★★★★★★★☆☆☆

容疑者 室井慎次 [DVD]

 (2005日本)

 新宿の路上で起きた殺人事件の容疑者に現役の巡査が浮かび、聞き込みに回っていた新宿北署の刑事たちが任意で事情聴取していたところ、被疑者が突然わめきながら逃走、トラックにはねられ即死してしまいました。一端は被疑者死亡のまま事件は解決とされたのですが、被疑者の遺留品から被疑者と容疑者に接点があったことを直感した室井管理官(柳葉敏郎さん)は、捜査続行を宣言します。ところが、その矢先、被疑者の母親が、過剰な捜査のせいで息子が犠牲になったのだとして、室井を刑事告訴、室井は検察官に連行されてしまいました。室井の弁護を依頼された津田法律事務所の新米、小原久美子田中麗奈さん)は、室井の釈放に奔走しますが、その頃警察庁と警視庁の上層部で事件とは直接関係のない思惑が交錯し、室井を追い込んで行きました…。


 う〜ん。結局。劇場で見た“予告編”が一番おもしろかったかなぁ…。

 すごく客観的に見れば、シリアス・ドラマを装っちゃあいるが、無茶苦茶ふざけた茶番ですよ。最初に被疑者の巡査を取り囲んでいる刑事の数が、あまりに多すぎてバカバカしいと思ったら、次の瞬間、新宿の路上をいったい何人の集団でひとりの被疑者を追いかけてるんだという、ありえない画が…この映像を見た瞬間に、どんなにシリアスを気取っても、ギャグとしか思えなくなってしまったのですよねぇ。刑事部屋も新宿の風俗営業の関係者や客でごった返していて、あまりにも狙いすぎと思うのです。で、最初の対立軸が、警察庁と警視庁の官僚同士の勢力争い。これがまたギャグ。本気かよ…本気であんなあからさまな権力争いを煽るセリフが、現場の周辺で飛び交ってんのか、と。ありえん…やれやれ。

 で、しばらくシリアスにドラマを進めて行こうとしているのに、緊張感に耐えられなくなると、いよいよ湾岸署からスリ・アミが登場。なんでやねん。なんで必要やってん。どうも。出演がままならない青島刑事(織田裕二さん)と、もはや出演不能の和久指導員(いかりや長介さん)から『応援メッセージがあった』ことを伝えるためにのみ、無理やり出演させたとしか思えなかったのです。そうまでして、湾岸署シリーズを引きずらなくても良いではないか、むしろ邪魔臭いだけやろ、とみんな思ったはずです。

 灰島弁護士(八嶋智人さん)率いる法律事務所の面々が、ヲタクタイプで、常にデジカメで写真を撮ってる姿、実に不快感醸してるワケですが、これって、たぶん、TVシリーズ第8話『さらば愛しき刑事』で、同じようなことしてた連中が出てたよね。あれ、引きずってたりしない? それ深読みしすぎ? “踊る〜”ならありえる冗談なんだけどな。ついでに袴田課長まで携帯でパチリとやって叱られたりして、なんなんだい。

 まぁ、テーマ的に警察内部の権力争いに室井が巻き込まれるという設定は、“踊る〜”である以上しかたがないところなんだが、どうせ思い切るんだったら、もっとシリアスに徹して欲しかった、そんな気がします。せっかく今までにないキャストをふんだんに起用したんだからさ。佐野史郎さんの検事も前半で出番が終わって、まったくストーリーを引っ掻き回せてなかったし、八嶋さんの灰島弁護士、もっとシビアに悪いことしてくれるのかと思ったら、ただのカネに汚いヲタク弁護士でしかなかったり、予告編で期待したキャストが思ったほど活躍してなかったのが、残念でなりません。まぁ、事件の解決も、かなり予想通りにベタな展開だったんだけどね。

 しかし、警察官僚の寝技の応酬、そんなドラマを見て、楽しいかねぇ? 毎度のことなのだが、寝技をかます連中は、相変わらずなんのお咎めも受けないし、世間様からの糾弾にも晒されない。さらに今回は、下っ端の現場の刑事が勝ち取る正義もあいまいで貧弱な内容だったし、灰島法律事務所の面々のおぞましくも汚いやり口も、思ったほどにはお灸をすえられていない。ホント。スッキリしない。事件が解決して、良かったと素直に思えない。庶民的には溜飲を下げる部分がまったくありませんのです。モヤッと…ですな。

 次回は、田中麗奈さんの小原弁護士のストーカー事件のエピソードを膨らませて、まったく“踊る〜”とはかけ離れたスピンオフ企画をキボンヌ…といいつつ、もう“踊る〜”でなくてもええやん、と思うのはワシの勝手?

 あいや、そうか。今回も津田弁護士(柄本明さん)の口から話題に上った、『潜水艦事件』がまだ映像化されてないのですよね? 織田裕二さんが今後“踊る〜”に出演しないということは、この企画、ボツ? 見たかったな。

 最後にどーでもイイことですが、田中麗奈さんは声が美しくないですねぇ。特に張り上げると、ビビる。歪む。穏やかに会話するシーンは、まぁイイんですが、シリアスに声を荒げるところなどは、残念ながら、聴いててやや不快かと。演技もまだ少し青いかもね…顔はスキなんだけどな…(苦笑)。

●監督:君塚良一