一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?

私的評価★★★★★★★★★★

打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか? [DVD]

 (1993日本)

夏休みの小学校の登校日は、港町の花火大会の日だった。小学生のクラスメイト同士の典道(山崎裕太さん)、祐介(反田孝幸さん)、純一(小橋賢児さん)、和弘(ランディ・ヘブンスさん)、稔(桜木研仁さん)の5人は、純一と和弘の「花火は横から見ると丸いか平べったいか」という言い争いから、町外れの灯台まで出かけて、浜から打ち上げる花火を横から見て真相を確かめることになった。ところが、クラスメイトのなずな(奥菜恵さん)から花火に行こうと誘われた典道は、集合時間待ちで家に遊びに来ていた祐介を置き去りにして、迎えに来たなずなに強引に腕を引っ張られながら家を抜け出していった。しかし、なずなは典道を道連れに、バスに乗って花火大会の会場と反対方向の駅へと向かっていくのだった・・・。


 岩井俊二さんが、1993年にフジテレビの番組で製作したTVドラマが、同年の日本映画協会新人賞を受賞したという異色の映画で、翌1994年に劇場公開されているそうです。
 元々テレビドラマなので、45分と短い尺ですが、中身の濃い作品です。

 岩井さんの脚本が、まず素晴らしい。
 小学生のあるある満載なストーリーなんだけど、たぶん、6年生だよね。
 思春期を迎えた子もいれば、まだまだお子ちゃまな子も混じってて、子どもらしい気まぐれだとか、わがままだとか、思い上がりだとか、思い込みだとか、ころころと興味が移ろって行く子ども同士のいろんなやり取りが、そこかしこにいっぱい詰め込まれていて、見る大人たち全てが、どこかしら懐かしさを覚えるような空気感たっぷりな作品になっています。
 子どもから大人に成長していく思春期の入り口で戸惑う、典道となずな。
 大人が、よくこんな子ども目線のシナリオ書けたな、と感心します。

 それから、子どもたちの演技が、実に素晴らしい。
 この脚本をみごとに活かしきってくれたのが、出演する子どもたちの、とても自然な表情だったり、ふるまいだったり、セリフ回しだったりするのです。
 子どもたちの、ころころと変わる気持ちを、的確に表す表情や仕草、セリフの間合い。
 特に典道、なずな、祐介の3人の間のやり取りは、もう素晴らしすぎて、ぐいぐい引き込まれてしまいます。

 そして、岩井さんの演出が、素晴らしい。
 光と色を巧みに操る画面作り、子どもたちの魅力を存分に引き出す演技指導、そして子どもたちの無垢な表情をたっぷりと捉えたカメラ割りの妙。

 なんか・・・決して同世代ではないのに、思春期の入り口で、小学校という狭い社会に閉じ込められて息苦しい思いをしていた自分の小学生時代を思い起こさせるような、そんな感じが、とてもステキでした。
 そして、とにかく主役のひとりである奥菜恵さんが、キラキラと光り輝いていました。

 気まぐれに典道を振り回した挙句、とても柔らかくてステキな笑顔で告げた、なずなの最後のセリフ。
 そう言っちゃうのかぁ・・・せつなくて、甘酸っぱい感じを含んだ何とも言えない余韻が残る・・・。
 ストーリーの落とし方が、めっちゃすごいなぁ、と思いました。

●監督・脚本:岩井俊二