一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

機関車先生

私的評価★★★★★★★★★☆

機関車先生 スペシャル・エディション [DVD]

 (2004日本)

 瀬戸内海の葉名島にある全校生徒7人の水見色小学校に、北海道から代用教員・吉岡誠吾(坂口憲二さん)が赴任して来ました。彼は子どもたちの前に立つと、黒板に「ぼくは話をすることができません。でもみなさんといっしょにしっかり勉強します」と書きました。「口をきかんの?じゃあ、口をきかん先生、機関車先生や!」とひとりの女の子が声を上げ、はしゃぎました。こうして喋れない純朴な青年教師と、屈託のない明るい島の子どもたちとの交流が始まったのです。


 剣道の試合で声を失った吉岡先生が、教職をあきらめ、最後の赴任地と心に決めた母の故郷の小学校で、子どもたちと触れ合うことで立ち直っていき、北海道に戻るまでを描いたお話です。

 昭和30年代のお話です。

 全体的に、ストレートで分かりやすいドラマ作りですが、子どもたちとの交流のエピソードの見せ方なんか、かなりいい感じです。感動させてやろうという気負いがまったくなく、かといって淡々としたドキュメンタリー風でもなく、とても心地よく心に沁みてきます。カメラが次第に引いていき、美しい風景の中に登場人物が溶け込んでいくような演出が、とても気に入りました。

 美しい瀬戸内の風景や、漁師町の人情味溢れる佇まいも、押し付けがましくなく、ふんだんに見せてくれます。明るい青空、穏やかに澄んだ波打ち際、大らかな楠の巨木、絵画コンクールの会場の木造建築には懐かしさが込み上げてきますし、青い夜の帳をゆっくりと行進する精霊流しの提灯の列の美しさには、思わずうっとりとします。そしてその風景の中には、元気な子どもたちの駆ける姿が随所に見られ、気がついたら自然と微笑んでいました。

 喋ることができないという吉岡先生役の坂口さんの演技、ふだん見かけるTVドラマの役柄とは違うキャラで、新鮮に感じました。表情と仕草だけで見せるのは、苦労されたと思いますが、しっかり映画の中に納まっていて良かったです。最後に黒板に書き残したメッセージを子どもたちが読み上げるシーンにかぶせて、初めて坂口さんの声が聞こえてくるのですが、彼は声もいいですね。しっとりと落ち着いてハリもあって、実に聴き取りやすい声音でした。

 出演者では、子どもたちがなかなか達者な演技を披露してくれているほか、倍賞美津子さんの米バァがいい味出してます。

 どわーっと一気に泣ける映画ではありません。じわっと沁み入る佳作です。

●監督:廣木隆一 ●原作:伊集院静(小説「機関車先生」)