一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

放郷物語 THROWS OUT MY HOMETOWN

私的評価★★★★★★★★☆☆

放郷物語 THROWS OUT MY HOMETOWN [DVD]

 (2006日本)

 「失くしたと思っていることは、失くしてしまったのではなく、ただ、気が付かなくなっているだけのこと」


 桜の遅い北関東の町。高校を卒業したばかりの愛子(徳永えりさん)と茅里(安藤希さん)は、この春から愛子が東京の大学に進学するため、離れ離れになる。愛子と芽里と芽里の彼氏の哲平(小林且弥さん)の微妙な三角関係を軸に、彼女たちが過ごした街で交錯するさまざまな人たちの人間模様を<喪失>と<再生>をテーマに描く群像劇。


 娘を探しに県外から転入してきたバスの運転手(山田辰夫さん)、結婚と仕事になかなか踏ん切りがつかないフリーターの青年(金子昇さん)、長い夫婦生活の中で夫婦の意義を見失ってしまった主婦(奥貫薫さん)と夫(田山涼成さん)、犬(たぶん、アラスカン・マラミュート)の飼い主を探すホームレス(西岡徳馬さん)。

 87分と、尺が短いのに、さまざまな人々の人生をいっぱい詰め込んでいます。そのため、それぞれの人生のエピソードは短く、掘り下げが浅い印象は否めませんが、さっぱりと説明的なセリフや独白を排して、状況、しぐさ、表情などだけで繋いだ各エピソードは、却って登場人物たちの心情にボク自身の感覚でいろんな思いを馳せることができて、感情移入しやすかったように思います。人によっては、この辺りを、観客に丸投げしすぎと感じる向きもあるかも知れません。あくまで、ボクの感想です。

 各エピソードでは、徳永えりさんの登場するシーンと奥貫薫さんの登場するシーン、しぐさや表情がとても印象的でした。それぞれがひとりっきりで登場するシーンでも、たたずまいが絵になると言うのか、場の空気を支配するような強い存在感を感じました。
 徳永さんの表情は、とても惹きこまれるものがありますね。朝ドラでも何度かお見かけしていますが、そのときは脇としてしっかり支えている感じ。本作は、十分主演女優の雰囲気を発揮されていると思います。実は、けっこう好きな女優さんなんですよね。
 奥貫さんや山田さんがスーパーで買い物をするシーンが何度か出てきます。BGMもなく、淡々と進んでいくんですが、その中でも何かしら、いろんな思いを浮かべながら買い物をしているのかなぁ、と、なんだかちょっと切ない気分で見てました。
 ホームレスのエピソードは、よく分かんない設定でしたね。あまりに状況が突飛過ぎます。
 ときどき、引きの画だけで押し切るシーンもありますが、表情が見えないけれど、状況と会話としぐさで、登場人物の表情が目に浮かぶようで、なかなか効果的な演出だと思いました。
 また、舞台は、北関東の狭い街なんでしょうね。各エピソードに、他のエピソードの登場人物が、頻繁に映りこんで来ます。街のスケール感を、うまく表現できているのかもしれません。

 最後のCGは、ちょっとあざとすぎたかな?
 でも、この作品の雰囲気は大好きです。BGV代わりにボサッと見てても、なんかホッとします。


(追記)
 バス運転手役の山田辰夫さんは、2009年に53歳で他界されています。2005年に胃がん摘出して復帰した頃の作品かと思います。謹んで、ご冥福をお祈りいたします。

●監督・脚本・編集:飯塚健