一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

母さんがどんなに僕を嫌いでも

私的評価★★★★★★★☆☆☆

母さんがどんなに僕を嫌いでも [DVD]

 (2018日本)

 タイジ(太賀/仲野太賀さん)は幼いころから母の光子(吉田 羊さん)が好きで、手間暇かけて作ってくれる混ぜご飯が大好物だった。だが一方、光子は情緒不安定で、タイジの行動にイラつき、つい手を上げてしまう。ある日、夫(斉藤陽一郎さん)との離婚問題が浮上し、光子は条件が不利にならないようにタイジ(少年時代:小山春朋さん)を児童保護施設に入れる。1年後、離婚が成立し、光子はタイジとその姉(山下穂乃香さん)を連れて別の家に引っ越すが情緒不安定は治らず、17歳になったタイジは家を出ることを決意するが……。(WOWOWの番組内容から引用)

仲野太賀と吉田羊が、難しい関係の息子と母親の役を熱演した実話ドラマ。母親から虐待を受けて育った息子が、家を出てから数年後、久々に再会した母親と向き合っていく。

漫画家、小説家、エッセイスト、ブロガーというさまざまな顔を持つ歌川たいじが自らの体験を綴ったコミックエッセイを、「泣き虫ピエロの結婚式」の御法川修監督が映画化。前半で描かれるのは小山春朋演じる幼少期のタイジが母の光子から受ける虐待の数々。光子役の吉田のあまりの迫力に目を背けたくなるが、それが後半、青年になったタイジが光子と向き合う展開に生きてくる。心に負った傷から感情を表に出せないタイジの心理を表情で表現した仲野の演技が出色で、光子の本当の気持ちを引き出す瞬間に胸が熱くなる。
WOWOWの公式サイトから引用)

 実話ベースなのね。
 『虐待された児童が、大人になっても、自分を虐待した母親を見捨てられない』って心理は、たぶん当事者じゃないと分からない。子どもにとっては、どんなにツマラない親でも、幼少期には自分の世界のすべてと言っても過言でないくらい、その存在は大きいものだ。親が亡くなるまで、血のつながりを断ち切ることは、案外出来ないものだと思う。
 もっと言えば、自分自身の言動の中に息づく親のDNAに気づいてしまったとき、最後は自分が死ぬまで、親子の血筋という呪縛からは逃れられないのだと思い知るワケだ。
 そこをスパッと断ち切れるドライな生き方ができる方がいるならば、マジな話、尊敬する。


 寝言はさておき。

 フツーに〝毒親〟でしかない吉田さん演じる光子。
 子役の小山春朋さんに演じさせるのは、実に忍びない虐待の数々。その仕打ちを繰り返されて、嘘笑いでやり過ごそうとする児童心理を懸命に演じるけど、見ていてなかなかしんどい。演技が上手けりゃ上手いで心配になるし、かといって子どもなりに考えて精一杯演じているのも、見ていて痛々しくてたまらない。それだけ、吉田さんの演技が、凄まじく鬼なんだと思う。

 救いは、現在のタイジが恵まれた3人の友人たちとの関係。みんな実に自分の気持ちに素直で、素で優しいカンジがあふれている。
 太賀さん(映画のクレジットは仲野太賀じゃなくて、太賀)の演技、特に表情が秀逸。ついつい引き込まれて心を動かされてしまう。

 最後は、なんだか性急に終わっちゃったカンジ。ちょっと拍子抜け。
 104分の尺だけど、あと16分足して、その後の母子関係がどうなったのか、具体的に描くのは憚られたのだろうか?

 ま、児童虐待毒親の映像は見ていてしんどいが、思った以上には良かったと思う。


●監督:御法川修 ●脚本:大谷洋介 ●原作:歌川たいじ(コミックエッセイ『母さんがどんなに僕を嫌いでも』/KADOKAWA刊)