一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

大いなる旅路

私的評価★★★★★★★☆☆☆

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大いなる旅路(日本映画専門チャンネル公式サイトより引用)
大いなる旅路 [DVD]

 (1960日本)

 関川監督のメガホンのもと、機関車転落シーンの撮影をはじめ、雪の盛岡での大掛かりなロケーションを敢行。

 雪以外は何も見えない。猛吹雪をついて進む機関車が、轟音の中に揺らぎ、渓谷の断崖に転落した―。この事件が、機関士の助手を務める岩見浩造(三國連太郎さん)の人生観を変えた。列車を守る人がいるから、乗る人は安心していられる―浩造は、無言のうちに預けられていた大切なものを初めて自覚。この時から、彼の機関車とともに生きる人生が始まった。
日本映画専門チャンネルのあらすじから引用)


 大正末年から岩手県盛岡機関区に機関士の助手として勤める岩見浩造の、30年に渡る波乱に満ちた鉄道員人生を軸に、岩見の家族や親友の鉄道員とその家族との交流を描いた人生讃歌。
 東映らしい、男くさい映画ですね。モノクローム作品です。

 雪の盛岡で、線路に雪崩れ込んだ積雪に乗り上げ脱線する機関車の映像が、衝撃的でした。どうやら実写で撮影されたようですが、そうとう大掛かりな撮影ですね。

この映画の中での機関車転覆事故は実際に1944年3月12日、山田線の平津戸駅と川内駅の間で蒸気機関車C58283牽引の貨物列車が転覆した事故をモチーフにしている。映画では同じ山田線の浅岸駅で蒸気機関車18633を実際に盛岡鉄道管理局長立会いで脱線転覆させて撮影を行った。ウィキペディア(Wikipedia)から引用)

 この映画が撮られたころは、戦後まだ15年ほど。戦争の生々しい記憶が人々の間にまだまだ色濃く残っている時代でしょう。
 戦時中のパートでは、駅のホームで、戦地に召される若者をけたたましく見送る人々の様子が何度も映し出されます。いやな映像だなぁと思いつつ、戦争の記憶を風化させないためには、こういった映画を鑑賞するのも一つの手段として、有りかなぁとも思います。この作品でも、岩見の長男(南廣さん)は戦死しますし、三男(中村賀津雄/現・中村嘉葎雄さん)は予科練で出撃することなく終戦を迎えたあと、燃え尽き症候群みたいになって人生を狂わせてしまいます。

 戦後になると、鉄道員労働組合運動に力を入れて連帯して賃上げ要求を行ったり、岩見の一人娘は〝自由恋愛〟の名の下、ゴロツキのような青年と駆け落ちするように家を出て行ったりと、新しい時代の世相を反映したエピソードが映し出されます。
 時代が移り変わっても、岩見自身の人生の信念は揺るがないものと見えて、頑固一徹な古風な父親であり続けます。
 頑固でカッとしやすい一方で、心根の優しさはさまざまな場面でにじみ出ており、昭和世代のボクには亡くなった父を思い出させる、懐かしい父親像だと思えました。
 しかし、当時の定年は55歳だと思うのですが、歳を重ねる毎に三國さんの老けメークがすごい勢いで進んでいって、定年時には、今の感覚だと、もう既に70歳を越えたんじゃないかと思えるくらいに老け込んでいて、ちょっと驚きました。そういう世代ということなんでしょうかね。

 最後は定年を迎えて、東京と名古屋に散った子どもたち家族を訪ねた後、盛岡に妻と帰って来て、土手で蒸気機関車を見つめながら終劇を迎えます。
 たなびく黒煙を眺めながら『これからだねぇ』という岩見のセリフが、ジンときて、ちょっと涙ぐんでしまいました。
 人生の終盤に、我が人生を振り返るとき、この映画のように、折々の出来事を思い出せるものなのでしょうか?
 今を生きている……つもりのボクには、忘れかけていることが多いのですが、母は今まで聞いたこともなかったような、昔の事ばかり語るようになりました。
 なんだか、いろんなことが頭の中でない交ぜになって、ちょっと切なくなりました。
 良い映画だと思います。


 岩見の後継ぎとして機関士になるのが、次男の高倉健さんで、当時29歳のずいぶん若々しい健さんの演技を拝めます。
 また、本日訃報を伺ったばかりの梅宮辰夫さんが、わずかな時間ですが出演なさってました。当時22歳。クレジットが無かったら、気がつかないほどの好青年でした。謹んでご冥福をお祈りいたします。


●監督:関川秀雄 ●脚本:新藤兼人