一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

最高殊勲夫人

私的評価★★★★★★★★☆☆

最高殊勲夫人 [DVD]

 (1959日本)

恋愛から結婚!なんて
つまらない!
現代の結婚は、若い二人の喧嘩から始まる!


 増村保造監督が「青空娘」に引き続き再び源氏鶏太原作、主演若尾文子で贈るスピーディでライトな増村保造版ラブ・コメディ。
 杏子(若尾文子さん)は、野々宮家の三女。三原商事の社長・一郎(船越英二さん)と結婚している長女・桃子(丹阿彌谷津子さん)、専務・次郎(北原義郎さん)と結婚している次女・梨子(近藤美恵子さん)は、三原家三兄弟の三男・三郎(川口浩さん)と妹・杏子を結婚させようと画策する。
 勝手に進められる結婚話に腹を立てた杏子は「断然結婚しない」と宣言したが、いつしか互いを意識するように…。
(DVDパッケージから引用)


 ドロドロしそうでしない男女の関係は、見ていて安心感があってイイわ。
 もうイイ歳なので、昼メロドラマみたいな濃厚なのは、耐えられませんwww


 なんかね、展開分かりやすいし、行き着く先もバレバレなんだけど、まちがいなくその恋の駆け引きをニヤニヤしながら楽しむ映画だと思う。
 もつれそうでもつれない、案外一つ一つの恋愛事情はカンタンにほつれてオジャンになっていくけど、素直になれない二人の恋のさや当ては、ヤキモキさせられて、なかなか面白い。
 結局のところ、長女・桃子の思惑どおりの結末になって、なんだか反抗していた子どもが、大人の手のひらの上で転がされていただけみたいになってしまうのもご愛嬌。
 プロ野球になぞらえて、最高殊勲選手ならぬ最高殊勲夫人の座を桃子から奪ってみせると、気負いなく言い切る杏子が清々しい。


 時代を映し出すのも映画。
 古い映画を観る楽しみの一つが、当時の人々の暮らしぶりや街並みなどを観ること。
 1950年代~60年代の景色は、観ていてなんだか心がしっとりと落ち着く。


 女たちが専業主婦になるために、会社という狭い組織の中で、男を取り合い、やがては〝玉の輿〟を目指すような時代を迎える少し前の話。
 仕事そっちのけで男を漁っている女子社員たち。
 会社はまるで狩猟場みたいに殺気立っている。
 目指すは〝寿退社〟からの〝専業主婦〟一直線。

 仕事は男、それを支えるのが専業主婦の女、男の出世が女の生きがい、女房子どもを食わせてやるのが男の甲斐性、それが当時のサラリーマン世帯の普遍的な価値観。
 それが、シアワセのカタチ。
 そんな時代。
 よくよく考えてみれば、毎週日曜日に、この時代の代表モデルのような家族の暮らしぶりを見ているなwww


 男女の仲のうわさ話は通勤途上で、化粧室で、仕事帰りの甘味処で、またたくまに広がっていく。
 男どもが見ていない化粧室の大鏡の前で、一斉にメイクしながら口々に杏子のことをうわさする女子社員たちの様子は、皮肉たっぷりで滑稽だ。

 一方の男もさほど仕事に疲弊している様子もなく、収入はそこそこでも、仕事帰りに一杯引っ掛けて帰宅するのが当たり前な、平穏な日々を送っているように伺える。
 ただ、わずか55歳で迎えてしまう定年を前に、次の仕事を探すのに難儀している杏子の父のことなど、当時のサラリーマン世帯の暮らしぶりを垣間見ることのできるエピソードを、うまく取り込んでいると思う。


 考えてみれば、60年も前の時代の話だ。いや、わずか60年前なのか。21世紀も20年目に突入し、今やすっかり世相が変わってしまった。

 次郎の恋人で勤務先の大島商事社長令嬢の富士子(金田一敦子さん)が、唯一この時代の女性としては異色に映るが、さまざまな稽古事で自分磨きをしながら好きなことだけに時間を割く彼女の生きざまは、彼女が女子社員ではなく、社長令嬢という身分だからとも言える。しかし、当時としては時代を先取りしているように見える彼女のライフスタイルが、今や働く女性にとって当たり前のことになっているなんてことは、この映画の当時の女子社員たちには思っても見ない価値観の転換だろう。いや、富士子に付いていけないと感じて別れを申し出た次郎に代表される当時の男どもにとっても、天地がひっくり返るほどの驚きかもしれない。


 良い悪いの話ではない。当時はそんな世相だったというだけのことだ。
 ただ、専業主婦の社会的価値を安易に低く見る考えには与しない。
 いずれにしても、まだ社会がセカセカしていない、古きよき時代があった。
 それを映画で知り、今の生き方を振り返るのも、決して無意味ではないと思うだけだ。


 小難しいことはさておき、なんと言っても、自然体の若尾さんがキラキラ輝いててステキだ。
 当時のコスチュームも目新しくて、決して古臭さを感じさせない。
 60年も前の映画ながら、意外とキュートでポップ!
 シアワセな体験と感じた次第である。


 ついでに小ネタを一つ、二つ。

 本作の中で、女子社員たちは、OLとは呼ばれていない。
 〝ビジネス・ガール〟(死語)だ。
 確か、英語圏では〝春を売る女〟の意味になってしまうことから、1963年に〝オフィス・レディー〟に呼称を変えるようになったと記憶している。
 ただ、英語が堪能でないボクには、本当にそういう意味になるのかどうかは、実はよく分かっていない。悪しからず。

 あと、たびたび瓶ビールの中瓶が出てきて、あまりお目にかからない銘柄のラベルだなぁと思って見てた。
 どうやら当時実在した〝タカラビール〟らしい。あのチューハイで名を馳せた寶酒造さんの商品だとか。
 こういうのも時代を記録した映像として、貴重だと思うワケ。


※同じ1959年の若尾さん川口さん主演の映画。
vgaia.hatenadiary.org



●監督:増村保造 ●脚本:白坂依志夫 ●原作:源氏鶏太(小説『最高殊勲夫人』/角川文庫刊)