一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

ミセス・ノイズィ

私的評価★★★★★★★★★☆

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映画『ミセス・ノイズィ』公式サイトより引用

 (2020日本)

今、あなたの常識が試される!

 小説家であり、母親でもある主人公・吉岡真紀(篠原ゆき子さん)。
 スランプ中の彼女の前に、ある日突如立ちはだかったのは、隣の住人・若田美和子(大高洋子さん)(52)による、けたたましい騒音、そして嫌がらせの数々だった。
 それは日に日に激しくなり、真紀のストレスは溜まる一方。
 執筆は一向に進まず、おかげで家族ともギクシャクし、心の平穏を奪われていく。
 そんな日々が続く中、真紀は、美和子を小説のネタに書くことで反撃に出る。
 だがそれが予想外の事態を巻き起こしてしまう。
 2人のケンカは日増しに激しくなり、家族や世間を巻き込んでいき、やがてマスコミを騒がす大事件へと発展……。
 果たして、この不条理なバトルに決着はつくのか――?!

(映画『ミセス・ノイズィ』公式サイト「STORY」より引用)


 何年か前にテレビのニュース番組で素顔を晒された騒音オバサンを思い出したのは、偶然じゃないよね?
 それで思い出すのが、あのオバサン、なんで顔にモザイクかけてもらえなかったんだろう?ってこと。
 あれ、やり過ぎだったんじゃないかなぁ?って、今さら思い返すんですが、さらに言うと、センセーショナルに煽るように報道しておいて、事件のその後を追いかけて報道しないのがマスメディアの罪深いところ。
 一般人の記憶には〝ただただ騒音を出して近所迷惑な所業を仕出かした迷惑なオバサン〟って印象しか残ってないのって、ひどい話だと思うのです。
 人間は、誰しも色んな感情を持ち合わせているワケで、ただ怒りに任せて布団叩いてラジカセがなり立ててる一面だけで全体像を評価されては、マジたまらん話でしょ?


 ま、それはさておき。

 いきなり、モヤッとしたのだよ。
 引っ越しして早々に「お隣り、あいさつしなきゃね」って言ったきり、真紀さん一度もあいさつに行ってないよねぇ……。

 締め切りに追い詰められていた小説の原稿を続けざまに徹夜して書いてるうちに、すっかりお隣りさんへのあいさつは忘れてるし、娘を公園に連れて行く約束も「ママお仕事で忙しいの。分かってよ!」で果たさず二日ばかり経ったころ、拗ねた娘が一人で公園に遊びに行くところに出くわしたお隣りさんが、全くの親切心から面倒を買って出て公園に連れて行ってくれてたと言うのに、いきなり「非常識にもほどがある!」と面罵してしまったワケです。

 ま、そこからボタンの掛け違いが始まるワケだけど、そもそも、あいさつ回りを端折っちゃダメだよねぇ、さすがに。
 そこから後も、自己中心的な思い込みや言動が次々と飛び出し、真紀さんは、すっかりお隣りさんに対して攻撃的になってゆくワケで。

 自分の価値観を基準に一方的に相手を決めつけてしまうのって、すごいね。
 人間関係が淡白なボクには、そこまでの思い込みはできないわ。
 たとえ「イヤだな」って思う仕打ちがあっても、「今日は虫の居所が悪かったのかも」ぐらいに考えて、すぐ流しちゃう。
 あるいは、お隣りさんとお付き合いの長いご近所さんに、どういう方なのかお尋ねしてみる、くらいはするかな?
 とは言え、人生ン十年も生きてりゃ、人となりが分かった上で〝絶対分かり合えない人〟というのは、たまに居てるから、そういう時は、再び引っ越してしまうかも知れませんねぇ。

 お隣りさんの顔がSNSに晒されてしまうことで、騒音事件は取り返しのつかない事態に陥ります。
 とりあえず、ココんところの社会は、白と黒に分けたがり過ぎです。
 世の中、グレイゾーンだらけだと思うんだけど、考えるの、面倒臭いんかな?
 すぐに白か黒か決めたがるから、間違えてたことが分かった時には恐ろしいまでの勢いで手のひら返し。けど、失われた名誉は取り戻せない理不尽さよ。
 そもそも、世間様には関係ないことまで、首突っ込んで来るなよ~って、思わん?
 それも、面白がってるなんて、サイテーだと思うけど、サイテーな所業を面白がるのが人間のイヤな本質でもあるか、なんて思うと頭が痛い。


 残酷で残念な事件だったけど、騒音事件の顛末は、ネタバレになるから書きません。
 ただ、ひとつだけ強いて言うなら、『オバサンがタフな人で良かった』という感想に尽きます。
 たぶん、大方の予想を裏切る面白さだと思いますよ。


●監督・脚本:天野千尋 ●共同脚本:松枝佳紀 ●脚本監修:加藤正人 ●音楽:田中庸介、熊谷太輔