一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

病院坂の首縊りの家

私的評価★★★★★★★★☆☆

病院坂の首縊りの家[東宝DVD名作セレクション]

 (1979日本)

 昭和27年、アメリカに渡るためパスポートの写真を撮りに訪れた本條写真館で、金田一耕助石坂浩二さん)は、主の徳兵衛(小沢栄太郎さん)から「命を狙われているので調査してほしい」と依頼されます。同じ日、写真館を訪ねてきた若い女性(桜田淳子さん)から、「今夜結婚の記念写真を撮りに来てほしい」という依頼を受けた若主人の直吉(清水紘治さん)は、助手の黙太郎(草刈正雄さん)とともに、迎えに来た男(あおい輝彦さん)の案内で撮影に出向きました。案内されたのは、以前若い女性の首吊り自殺があったため、長らく空き家となっていたはずの法眼病院の元の屋敷でした。直吉は訝りながら中に入ります。廃屋の中に似つかない金屏風の前で、さきほどの男と花嫁が待っていたのですが、何やら様子が変でした。昼間来た女性は「自分の結婚ではない」と言っていたのに、花嫁はその女性のようです。しかし、どこか目の焦点が合わないような花嫁の様子は、正気とは思えません。また、南部風鈴が2人の間にぶらさがっていたので、直吉が外そうとすると、男が「家の流儀だ」と怒鳴り、そのまま写真に撮ることになります。翌日出来上がった写真を見た徳兵衛は、「花嫁は法眼家の由香利お嬢さんだ」と断言しました。そしてその夜、件の若い女性から再び、今度は電話で、「昨夜と同じ場所で、風鈴を撮ってほしい」という依頼が、本條写真館に入ります。たまたま居合わせた金田一と写真館の3人が出向いていくと、中は真っ暗で、誰もいません。懐中電灯の明かりを部屋の真ん中でゆっくりもたげると、そこには昨夜の男の生首がぶらさがっていました…。


 どうも、心が荒んでいるようで、せっかくのGWだと言うのにどこにも出かけることなく、しかも見たDVDは、何度も繰り返し見た市川崑監督の金田一耕助シリーズばかり。犬神家以外全部見返しました。しかも、ほぼ2回どおり。あぁ…時間のムダ!?

 中学生当時読んだ角川文庫版は上下2巻、1冊でもじゅうぶん長編と思われる分厚さだったのに、よくまぁ読破したもんだと思います。確か、当時『金田一耕助最後の事件』という触れ込みだったと思うんですが、一応事件解決後、冒頭の予定通り金田一は渡米してしまうことになっているので、日本での事件解決はないという設定だったのでしょう。それを受けて、都筑道夫先生が、『探偵もどき』という連作短編集でこんな事件を扱ってます。毎回違う名探偵になりきってしまうお調子者の主人公が、金田一耕助になりきってハワイで出くわした事件を解決する際、現地に住む日系の老人の手助けを受けるのですが、実はどうもその老人がホンモノだったのではないか、というオチです。余談でした。

 ま、とにかく原作はやけに長い(時間の流れも相当長い…28年?経過して解決してるのか?)ので、たぶん、本作より人間関係も相当複雑だったのではないかという気がします。法眼家の系図も掲載されていたと思うのですが、何度もそのページを見返しながらも、結局当時はよく分からなかったんではないかと。映画で見ると、「そんな偶然、あるかいなぁ〜」て、ツッコミ入れたくなるような部分が、実は哀しい人間関係の一番キモの部分であったりします。ま、イイんですけどね。

 山内敏男の生首風鈴事件は、本で読んだときに相当に衝撃を受けたのです。自主規制で詳しくは書きませんが、その部分の描写が今でも脳に刷り込まれているようで、正直なところ、映像化された本作の描写より、活字の方がおぞましかったですね。ま、本に書いてあるとおりに映像化したら、映画のジャンルが変わってしまいそうですが…(苦笑)。あと、映像化されていない部分で、原作で衝撃を受けた部分が終盤にあるんですが、法眼の屋根裏部屋に寝ていた老女が老衰で亡くなったとき、その姿が…まぁ、ここも自主規制します。とにかく少年期に読むには、ハードな小説であったという気がしてならんのですワ。

 途中で、6人が立て続けに電話で話しているシーンが出てくるんですが、特定の2人以外は、誰とも話し相手がつながっていないような気がして、混乱します。きっと、その『混乱』を狙った演出なのでしょうが、一見すると意味ありげで、けっこう引っかかります。何度見返しても、3人くらいは何のことやらワケわからん電話になってるんですけどね。

 本作の伏線的映像は、けっこう後で見返すと「ほぉ〜、なるほどなぁ」と思わせてくれる、かも、知れません(びみょ〜)。とりあえず、最初の事件後、金田一は犯人に気づいているのではないか、そう見えます。ただ、事件の全容が見えないから、コツコツと調べていくうち、事件が進行してしまう…う〜ん、それでイイのか? 警察じゃないからイイのか? ま、ツッコんでも仕方ないところだが、気がつかない人の方が多いでしょうから、これでイイのだな、きっと。

 本作も、最後に犯人は、自ら命を絶ちます。シリーズ5作中、最も印象的で、美しく、せつない死に様です。

●監督:市川崑 ●原作:横溝正史(小説「病院坂の首縊りの家」)