一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

模倣犯

私的評価★★★★☆☆☆☆☆☆

模倣犯DVD
模倣犯 [DVD]

 (2004日本)

 豆腐屋の孫娘(伊東美咲さん)が消息を絶って10ヵ月後、公園の花壇からショルダーバッグと女性の切断された腕が発見されます。やがて死体の場所を示す映像が、ネットやテレビを介して流布し、その映像の場所から彼女の死体が見つかりました。ワイドショーやネットの掲示板が事件の話題で賑わいを見せると、ワイドショーの本番中に犯人と名乗る人物からの電話がかかり、殺人のライブ映像を流すという予告が発せられます。そして予告の時間、それらしい映像が流れ出したころ、犯人と見られる二人の男の乗った車が、湖に転落する事故が発生し、犯人は二人とも死亡してしまったかに見えました。ところが…。


 宮部みゆきさんの本は読んだことないのですが、ベストセラーはその物量の凄まじさにちょっと引いてしまい、結局読まないんだろうな、なんて思ってます。で、たまたま見つけたこちらの原作のレビューを拝見すると、本来あの分厚さは、登場人物の多さと、その人物の掘り下げの深さに起因しているためと思われ、これは賛否両論と言えそうです。内容的には読み応えが相当あると思うので、嵌れば一気に読み上げるだろうし、ボクみたいに登場人物が多すぎると、人となりや人間関係を紙に落として一々理解しないと読み進められない性分の人間だと、とても耐えられない物量になってしまうおそれが十分あります。おまけに人物の取り上げ方が深ければ深いほど、フツーの人間は刺激過多で耐えられないような気がします。日常生活では考えられないような、他人の個人的な情報の洪水にさらされてしまうワケですから、ナイーブな心をお持ちの方だと、サラッと流しておしまいにできないんではないかと…。日常はそんな他人のことを深く知りたくない、って思いながら生きてるのが現代の日本人だからねぇ…。

 で、大林宣彦監督の『理由』を見たときにも漠然と感じたことなのですが、もしかしたら宮部さんの作品を映画の尺に収めるという作業は、ハナから無謀な挑戦なのかもしれない、と本作を見て、その意を強くしました。おそらく、原作を読破されたファンの方には、この映画の切り取り方は耐え難いモノがあるんではないでしょうか? こういう場合に、たったひとつだけ自分を慰める言葉があります。原作は原作、映画は映画、メディアが変われば全く別モノ、と。そういった視点で楽しむしかないでしょうなぁ。

 とはいえ、いろいろと不満はあります。なぜか『理由』と同じ傾向の画質で、映像が妙に暗めで、コントラストがきつくて刺々しくて、人物の輪郭は今にも滲みそうなぼやけ方だし、なかなか目に優しくない画面です。監督のこだわりがいろいろあるんでしょうが、暗くても美しい映画はいっぱいあるワケで、ちょっとこのソフトを大画面で見る価値は感じられないのですよねぇ。

 クライマックスのブッ飛び映像も、相当ひどい。いや、これも賛否両論あるんだかないんだか知らないけれど、アホかと。バカかと。タワケかと。なんなのそのCG使った映像は。どういう意味を込めてんの、その演出に。降って来るのは赤いモノかと思ったら、黒いモノだけなの? リアリティなっすぃんぐ! 監督の意図が読めないアホで申し訳なかんべ。けど、そんな大衆向けに作った映画だろ? ちょっとなぁ…トホホだよぉ。

 そして、まぁ見たあとに分からなかった、意味不明の謎も多々あって、演出の意図も含めた“44の謎”というDVD特典があったけれど、これを見てますますイヤになった。謎は結局、「これこれ、○○通りの解釈ができそうだねぇ。でも、どれが真実かは分からないよぉ」みたいな調子で解説されてて、余計にモヤモヤ感が募るばかり。モヤモヤ感はやがて軽い怒りに化けます。こんな解説(とも言えないけど一応、解説)がねぇと楽しめねぇ映画は、映画としては完成されてねぇよ!って叫びたくなります。

 う〜ん。たぶん、2度と見ないような気がする。犯人の思考や言動は胸クソ悪いばかり(に感じられるほどいい演技なんだろうけど…)だし、いっぱいフツーの人が殺されちゃって胸が痛むし、クライマックスはギャグだし、ラストは日和ってるとしか思えない甘さだし、ま、ハッキリ言って、スキじゃない。と、まぁそういうことです。★は山崎努さんの存在感に対する敬意です。

●監督・脚本:森田芳光 ●原作:宮部みゆき(小説「模倣犯」)