悪霊島
私的評価★★★☆☆☆☆☆☆☆
(1981日本)
鵺(ぬえ)の鳴く夜はおそろしい…
テレビの予告編で、ビートルズの“Let It Be”が流れている横溝正史の映画ということで、ずいぶん違和感を感じていたことを思い出します。映画のキャッチ・コピーが冒頭の1行ですね。「鵺」ってなんのことでしょう? 妖怪の名前にもあったような気がします。そのせいで、テレビの予告編を見て、怖いイメージが膨らんでいました。ネタバレになっては面白くないので、これ以上は書きません。
角川大映映画の横溝作品です。監督は篠田正浩さん。金田一耕助は鹿賀丈史さん。そして、主役は、今は亡き古尾谷正人さんです。
原作は読んでいません。劇場でも見ていません。何がサウンドリニューアルなのかというと、劇場公開版では挿入歌の“Get Back”とエンディングの“Let It Be”がビートルズのオリジナル曲だったのに対し、著作権の問題がクリアできなかったのか、カバー曲に差し替えられているのです。おそらく、かなり印象が違うのでしょう。劇場公開版をDVDで見たいというレビューをいくつか読みました。ビートルズのオリジナル曲はアナログ・レコードでもCDでも持っているので良く知っていますが、幸いなことに、映画のほうは、このDVDで初めて見るので、違和感はあまりないです。
ストーリーは、元ヒッピーの五郎(古尾谷正人さん)が、ジョン・レノンの死を知らせる報道を目の当たりにし、1970年ごろ日本中を放浪していたときに広島県の刑部島で遭遇した事件を回想するという設定で始まります。横溝作品にしては珍しく、1970年ごろを舞台に、戦後の高度経済成長だとか、当時の若者の風俗のひとつであるヒッピーとビートルズの曲を織り交ぜて、失われていく日本の伝統文化を頑なに守ろうとした刑部家の人々の事件を描いています。横溝正史さんの人気作のほとんどが、太平洋戦争中に疎開していた岡山の思い出を元に、岡山や広島を舞台に戦中・戦後の事件を扱っているので、時代設定が珍しいと思ったら、原作は遺作なのだそうです。
岩下志麻さんが、彼女らしい謎めいたキャラクターを演じていて、ぞっとします。別に好きでも嫌いでもない女優さんですが(そう言えば、高校2年のときの担任が好きな女優さんで挙げていました)、日本映画には欠かせない女優さんのひとりでしょうね。
当然のことながら、市川崑監督、石坂浩二さんの東宝版金田一耕助シリーズとは、ずいぶん印象が異なる作品です。横溝作品の持つおどろおどろしい印象は持ち合わせていますが、鹿賀さんの金田一耕助は、まったくイケません。篠田監督の意図的な演出かもしれませんが、石坂浩二さんや古谷一行さんが金田一耕助のイメージを確立しているせいで、金田一は難しい役になっている気がします。いや、気のせいかな? 若い人には金田一耕助のイメージは確立していないかもしれないから、今の30代後半以降の世代にとって色が付いているというべきでしょうかね?
とりあえず、横溝作品は、気分が滅入っている時には決して見ない方がいいと思ってますが、この作品もけっこう設定的にはドロドロしたものがあって、あまり何度も見たいとは思えないですね。