一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

本陣殺人事件

私的評価★★★★★★☆☆☆☆

本陣殺人事件 ≪HDニューマスター版≫ [DVD]

 (1975日本)

 江戸時代から本陣として栄えた旧家の一柳家の当主・賢蔵(田村高廣さん)が40歳にして初めて結婚することになりました。4月も末だというのに、雪が降る夜、一柳家に花嫁の久保克子(水原ゆう紀さん)が白無垢の花嫁衣裳でやってきて、婚礼の儀が滞りなく済むと、ふたりは離れで初夜を迎えました。ところが、明け方近くになり、突然克子の悲鳴と琴をかき鳴らす音が離れから響いてきたのです。克子の叔父の銀造(加賀邦男さん)を先頭に母屋から離れに一柳家の男衆が駆けつけると、中には血まみれのふたりの死体があり、凶器の日本刀が庭に突き刺さっていました。県警の磯川警部(東野孝彦さん)と、銀造の旧知である金田一耕助中尾彬さん)の捜査が始まりますが…。


 原作は読んでいませんが、太平洋戦争後に、横溝正史さんが日本の探偵小説界に劇的な光を放った名作であり、金田一耕助が初めて登場する記念すべき作品でもあります。

 なぜ、婚礼を終えたばかりの幸せいっぱいのふたりが、無残な殺され方で命を落とさねばならなかったのか?---旧家の婚礼に対する因習など、現代では首を傾げたくなるようなエピソードもままありますが、人の心の弱さ、あるいは他人から見ればバカバカしいほどの愚かさを知れば、名状しがたいやるせなさに駆られます。

 1970年代、TVの横溝正史シリーズで古谷一行さんが金田一を演じて以来、こういった探偵モノのドラマは、いやというほど濫造されています。1週間に何回2時間サスペンスを見ますか?てな話です。その作品のほとんど全てと言っていいと思いますが、後半のクライマックスでは、犯人と探偵役が対峙し、事件の謎解きに時間を費やします。このスタイルは、探偵小説そのもののスタイルを踏襲しているものと思われますが、本作は、そう言った視点からすると、探偵小説っぽくない雰囲気で、事件が解決されて行きます。捜査の進行上も、解決編でも、全くといっていいほど、大げさな演出がないので、盛り上がりがありません。これじゃあミステリーじゃないだろう、と思う人もいるかも知れませんネ。

 映像的には、金田一が推理をしている現在の映像に、事件当時に起こったであろう映像がシームレスに被っていく演出が、なかなか面白いです。また、事件当時の映像をサイレントのモノトーン映像で見せる演出もイイと思います。

 1976年、東宝市川崑監督の『犬神家の一族』が製作されるまで、日本映画に登場する金田一耕助は、原作のような和装におかま帽、おまけに不潔な蓬髪掻きむしるというスタイルではありませんでした。ボクは見たことありませんが、片岡千恵蔵さんの金田一は背広姿でダンディだったそうですし、1977年、松竹の『八つ墓村』に登場した渥美清さんの金田一は、夏らしい白い開襟シャツに生成りのジャケットとスラックス、頭には麦わら帽子でしきりにタオルで汗を拭うという出で立ちでした。本作の中尾彬さんは、ジーンズを基調としたスタイル。もう少し小道具が入ると、時代的にヒッピー風と言えなくもない出で立ちです。悪くはありませんが、名探偵としてのカリスマ性には欠ける印象です。

 評価が低目なのは、あくまで原作のストーリー、しかも事件の動機にシンパシーを感じられないからかな? この映画が作られた当時は、まだ理解・納得できる部分が日本人の精神生活にあったのかも知れませんが、時代が変わりすぎましたかねぇ…。現代は刺激があちこちに露出し過ぎていて、心が磨り減っていくばかりですなぁ…。

●監督:高林陽一 ●音楽:大林宣彦 ●原作:横溝正史(小説「本陣殺人事件」)