一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

半落ち

私的評価★★★★★★★☆☆☆

半落ち [DVD]

 (2003日本)

 新年一発目は、東映の昨年のヒット作です。

 感想は、久々に見応えあるドラマを見た感じです。

 原作は横山秀夫さんの同名の小説で、2002年の「このミステリーがすごい!」第1位ほか、この年のミステリーランキングを総なめした作品だったと記憶しています。原作は読んでいないのですが、映画は原作に忠実に作品化されているそうです。

 「半落ち」とは、警察用語で、罪を洗いざらい自供している被疑者のことを「完落ち」というのに対して、何かしら隠していることがあると思われる被疑者のことを指す言葉のようです。


 ストーリーは、現役の群馬県警の警察官である梶警部(寺尾聰さん)が、アルツハイマーを患っていた妻(原田美枝子さん)を扼殺して3日目に自首したところから始まり、空白の2日間について頑なに何も語ろうとしないことが問題になる、というシーンから始まります。群馬県警では、警察官の不祥事ということで、2日間のことを「自殺する場所を求めてさ迷い歩いていた」ことにするよう調書を捏造する工作がなされ、不審に思った検察官(伊原剛志さん)も、検察事務官の不祥事が発覚したため、調書捏造の疑いを追及することを断念させられるといった、どうにもやりきれない話が次々と起こり、事件の真相をこれ以上解明させまいとしていくような展開になります。東洋新聞前橋支局の記者(鶴田真由さん)が、調書捏造の疑いに感づき、独自に調査を開始しますが、なかなか思うに任せません。最初に取り調べに当たった警察官(柴田恭兵さん)は、梶のコートのポケットに入っていた新宿歌舞伎町の店の名前入りのポケットティッシュから、梶が新宿に行っていたことを疑いますが、それも不明のまま。そして、梶警部は裁判にかけられます。


 愛する妻を失い、罪を認め、これ以上失うものはないといった態度の梶が、頑なに守ろうとしたのは、一体なんだったのか? 空白の2日間に、どこで、何をしていたのか、というのが謎のミステリーです。非常に謎解きとしては、珍しい題材かと思います。おそらく、謎解きの解答自体は、ミステリー的には弱いと思うのですが、原作が1位の評価を得たのは、読み応えのあるドラマ構成のせいだったのではないか、そう想像します。

 映画の方も、最近見た作品の中では、かなり重厚な感じを受けましたが、もう少し突っ込んでもいいかな、という点もいくつかありました。原作はその辺がきっときっちり書かれていることとは思いますが、ひとつ挙げると、吉岡秀隆さん演じる裁判官が、判決に至った理由が、いまひとつ理解できなかった点です。元裁判官だった父の痴呆介護の問題を抱えている彼は、おそらく介護に対して、梶警部とは対極的に考え方が違っていたのだと思います。公判での彼と梶警部とのやりとりの中で、彼も悩んだようではありましたが、映画のストーリー的には、その辺の悩みは余談なんですね。数カットの映像だけで、あっさり判決となりました。2日間の謎の解決についても、やや見せ方が苦しかったかな、という感じはしました。なぜ隠したかったのか、なぜ最後まで認めなかったのか、という点が、検察官のセリフだけで提示されたのは、ちょっとインパクトに欠けたかも…。

 あと、脇役が、けっこう分厚いですね。警察官幹部に嶋田久作さん、石橋蓮司さんら、検察に西田敏行さん、田山涼成さん、新聞記者に田辺誠一さん、被害者の実姉に樹木希林さん、弁護士に國村隼さん、その妻に高島礼子さん。

 そして何より、寺尾聰さんの寡黙な中に滲み出る人柄が、しっとりとした雰囲気の映画にしています。佳作です。

●監督:佐々部清 ●原作:横山秀夫(小説「半落ち」)