一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

天国の本屋~恋火

私的評価★★★★★★★★☆☆

天国の本屋 恋火 [DVD]

 (2004日本)

 生きながら天国に連れて来られた健太(玉山鉄二くん)が天国の本屋で短期のバイト中に、若くして病気で亡くなった憧れのピアニスト翔子(竹内結子さん・二役)と出逢い翔子の未完のピアノ組曲を完成させる、地上では翔子の姪・香夏子(竹内結子さん・二役)が、商店街の花火大会復活の目玉として、翔子の元の恋人・瀧本(香川照之さん)に“恋する花火”を打ち上げてもらうため奔走する、そしてふたつの物語が、結ばれなかったひとつの恋に、ステキな結末をもたらす、そんなファンタジーです。


 主演は“何度死んでも蘇る女優(^^;)”竹内結子さん、でも、脇役の方々が細やかな非常にいい演技をしてらっしゃるので、竹内さんが浮いて見えないのがたいへん良いです。篠原哲雄監督は、丁寧な演出をされる方のようですね。北海道縦断ロケを敢行した作品全体の雰囲気も相まって、好感の持てる作品に仕上がっています。

 しかし。

 一番泣けたのが、実はサイドストーリーのはずの香里奈さん演じる由衣が、死んだ幼い弟と天国の本屋で再会するくだりでした。

 惜しいなぁ…健太が地上に帰って来てから以降は、予想どおりの間抜けな展開になってしまいました。一番気になったのは、香川照之さん演じる瀧本の心変わりの過程が、スッポリと抜け落ちていたこと。前半で香夏子と激情のあまり引っ叩き合いまで演じて見せたあと、まったく登場しなくなります。どういう気持ちの変化があって、花火を打ち上げる決心をしたのか、まったく分かりませんし、納得できません。香川さんの演技がとてもすばらしかったので、よけいに惜しいと思います。健太と香夏子の唐突な出逢いに至っては、もう無理やりとしか言えません。感情がついていけません。何ゆえ“恋の予感”を感じさせる香夏子の真剣な表情で終わるのか、思わず苦笑してしまいました。篠原監督、このへんはどう考えていたのでしょうか?

 北海道の景色を寄せ集めた天国の風景は、最高に“天国らしさ”を醸してました。ほどよく自然と廃墟や廃線のあとがこなれた天国の街並みの美しさにうっとりし、どこでロケしたのか知りたかったのですが、メイキングにも出てきませんでした。喫茶店が小樽だったので小樽なのかなぁ? 天国と地上を結ぶサロベツ原野の一本道、最高によかったです。見渡す限り人っ子ひとりいない平原、それゆえ無茶苦茶風が強かったようですが、“境界の道らしさ”が出ていたと思います。

 メイキングでやたらと「早く東京に帰りたい」と、出演者もスタッフも連発しているのが気になりました。9月に真夏の映画を撮る1ヶ月弱の北海道ロケ、そんなに辛かったのか? いや、それより、そんなに東京がいいのか?

 玉山くんも竹内さんも、ピアノ弾いてないですよね? メイキング見ててもピアノ指導が3人も出てきてるし、かなり練習している風景が映し出されるんだけど、オープニングのシューベルトの鱒の演奏のメイキングでは指が止まったあとにもピアノ演奏が続いていたので、指あわせだけですよね? それでも実際に弾いているんではないかと匂わせるメイキングの曖昧さが、ちょっとイヤらしいんですが、本編でも観客を騙すほどに指捌きが出来ていたのが、練習の成果なんでしょうね?

 ストーリーにはケチつけましたが、リラックスできる気持ちのよい作品です。

●監督:篠原哲雄 ●原作:松久淳+田中渉(小説「天国の本屋」/小説「恋火」)