一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

ゲロッパ!

私的評価★★★★★☆☆☆☆☆

ゲロッパ ! GET UP スペシャル・エディション [DVD]

 (2003日本)

 コテコテの大阪ヤクザの組長・羽原(西田敏行さん)は、刑務所収監を数日後に控え、大好きなジェームズ・ブラウンの名古屋公演に行けなくなってしまい、気落ちして「組を解散する」と言い出しました。そんな羽原を見かねて、弟分の金山(岸部一徳さん)は、子分の太郎(山本太郎さん)らに「ジェームズ・ブラウンをさらって来い」と、突拍子もない命令を下します。一方羽原は、25年前に生き別れた娘、かおり(常盤貴子さん)の居所を突き止め、府中の彼女の家に向かいます。しかし、イベント会社を運営するかおりは、物まねショーの営業で蒲郡に出かけていました。


 う〜ん、ストーリーも破綻しているし、登場人物の感情の動きもブツ切りにされてるし、強引強引。

 (1)ウィリーが持ち込んでしまった“ブツ”は、一体どういった人物が、何の目的のためにアメリカから日本に運ばせたのでしょうか? 売買が目的なら、それは強請りです。が、フツーに考えて売れるような代物なのでしょうか? スキャンダルねたにはなると思いますが、それが目的なら、ネットで流せばお仕舞い、アメリカでコトが済んでしまうお話になってしまいます。なんか、インターネット以前の70年代くらいのネタのような気がしてなりません。取引相手の岡村隆史さんの役どころも、何の説明も脈絡もなく登場して消えていく、強引な設定です。

 (2)ウィリーは、ジェームズ・ブラウンの滞在するホテルに乗り込んで、一体何をするつもりだったんでしょうか? そっくりさんの登場でイタズラをするつもりなら、何もわざわざ日本に来てまでせんでも、アメリカでやったら?と思います。

 その他、羽原組長がかおりの家を訪ねていったときの、孫(太田琴音さん)の反応のありえなさとか、不自然で強引な部分は数え上げたらキリがありません。いくらコメディでもねぇ…。

 前半の細かいエピソードの同時進行は、事前に何も知らずに見たら、さっぱり分からないと思います。終劇近くになって、なんやそら?と思いながら、ああ、そんな設定やったんか、と気づいて、アホらしくなる、そんな感じ。

 また、小ネタの詰め込みすぎは、洗練されない素人芸見せられているようで、少々うんざりします。ストーリーも10年くらい前に、素人のボクが書いたスラップスティック小説にどっかしら似ている気がして、これでもプロの仕事か、と呆れました。トータス松本さん、塩見三省さん、岡村隆史さんらの役どころはストーリー的には過剰サービス、というか、邪魔とすら思えます。

 この映画は、蒲郡以降だけで十分な気がします。そこから前の振りは、別の映画見ている気がするので…。特に、冒頭の銭湯でのヤクザの抗争シーンはエグすぎて、それ以降の羽原組の面々の情けなくもおかしいドタバタ劇が、素直に笑えないほど引いてしまいました。手首から先を拳銃で吹き飛ばしたシーンを繰り返し長めに見せる必然性が、コメディ映画のどこにあるというのでしょうか? おまけに、このシーンさえ映し出されていなければ、クライマックスでかおりが「お父ちゃん」と叫んで、羽原を許すシーンでほろりと来ること請け合いだったのに、あんなエグいことしていた親父を、25年ぶりに遭って、簡単に許せるかおりの心変わりを、ボクは許せませんでした。ホント、いいシーンだったんだけどなぁ…。ヤクザの抗争シーンを、血生臭くなく抑えておけばよかったと思うんだけど。深作監督の“バトルロワイヤル”みたいに、暴力にメッセージがある映画なワケではなかったんですから…。

 いやね、巨匠・井筒和幸監督作品でなければ、ここまで貶さなかったと思うんですけど、日ごろ他人の映画を酷評してらっしゃる方だけに、どれほどの映画を作ったモンかと期待していた分、期待外れ具合が大きかったのです。モノマネというチープな大衆芸能にスポットを当ててみせる井筒監督のスタンスは理解できるのですが、それにしても、作りが雑な気がしてなりません。クライマックスで西田敏行さんが水上ステージでJBを歌って踊るシーンも、テレビスポットで切り取られた部分以外は、むちゃくちゃショボく見えてしかたなかったですし…。

 エンドクレジットの映像が一番良かったかも知れません。なんやそら…。

 あ、娘の居所を探るのに、寿司屋のカウンターで篠井英介さんと西田さんが交わす会話で「便利やなぁ、住記ネット。ヤクザの娘で、かおり、と入れたら云々」というくだり、井筒監督らしい切り口なんでしょうが、ヤリ過ぎだと思います。まだ世間的には“住記ネット”の内容が認知されていない現状で、不用意に国民の不安を駆り立てるようなデマを、映画の中のセリフで流すのはいかがなものかと。冷静な人は、いちいちヤクザの娘かどうかなんて情報を保持しているはずがないと気づくかもしれませんが、大多数の人は、「もしかしたら…」と思ったのではないでしょうか? 杞憂ならいいんですけど…。

●監督:井筒和幸