一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

姑獲鳥の夏

私的評価★★★★★★★☆☆☆

姑獲鳥の夏 プレミアム・エディション [DVD]

 (2005日本)

 昭和20年代の末ごろの夏、東京---20ヶ月も妊娠し続けている女の話を、雑誌記者の中禅寺敦子(田中麗奈さん)から聞かされた作家の関口巽永瀬正敏さん)は、敦子の兄で古書店京極堂”を経営する中禅寺秋彦堤真一さん)を訪ねました。京極堂は関口の旧制高校の同級生で、あらゆる知識に精通しており、困ったことや不思議なことに出くわすと、何かと頼りにしていたのです。弱った関口を尻目に、京極堂は涼しい顔で応えました。「この世には不思議なことなど何もないのだよ」と。事件は、久遠寺医院の娘・梗子(原田知世さん・二役)が、子どもを身ごもってから20ヶ月も月日が流れているのに一向に生む気配がないということと、彼女の夫が、1年半前医院の密室から消えてしまい、行方不明になったこと。実は梗子の夫の牧朗(恵俊彰さん)は、関口たちの一年先輩で、共通の知人でした。同じ一年先輩の探偵・榎木津礼二郎阿部寛さん)を頼るよう、京極堂は関口に勧めます。関口が薔薇十字探偵社を訪れると、梗子の姉・涼子(原田知世さん・二役)が訪れ、榎木津の助手(荒川良々さん)に「助手の関」と紹介された関口に、牧朗の行方を捜して欲しいと依頼しました。涼子の儚げな美しさに惹かれた関口は、なんとかして涼子を助けたいと願うのです。そして、探偵・榎木津と関口は、敦子を伴って久遠寺医院を訪れ、梗子が閉じこもり続けている書庫に足を踏み入れることになったのですが…。


 事件は、ホントならここで終わっていてもいいんですけど…なぜここで終わらなかったのか、納得いかなかった方、多いかも。でもね、本作は、ここのシーンが肝心なんですよね。関口が鬱病気質で、しょっちゅう彼岸と此岸の区別がつかないような事態に陥る人物であることが、原作では強く刷り込まれていくので、とても納得のいくお話になってるんだけど、映画はちょっとその辺の演出が薄いので、正直、どうかな?と。役者の永瀬さんの雰囲気も、やはり原作とはかけ離れていましたよね。関口はそんなに勢いよく走り出したりしちゃあいかん、と思うくらい、大儀で自分の世界に引きこもり勝ちな鬱屈した男でないと…と思ったんですけど、ほかに務められそうな役者さんは思いつきませんでした。ある意味、涼子との淡いロマンスを演じる主役なワケですから、原作どおりのサル顔の役者さんでは、感情移入しづらいかもしれんしねぇ…。

 オープニングで監督が実相寺昭雄さんと分かって、「ああ、そうか…」と、ちょっと引いてしまいました。光と影を使い独特の映像美を見せつつ、よく言えばとってもアーティスティックで、つまりは難解な映画を作られる方です。京極堂が出張る後半あたりは、もう完全に京極ワールドではなく、実相寺ワールドでした。実相寺監督のお作は、特撮モノと円谷のウルトラシリーズしか知らないのですが、イイも悪いも半々てとこですかね。手放しで好きにはなれないけど、決して嫌いということもない、そんな感じです。ただ今回の作品では、原作を読んだときに頭の中で描いた、クライマックスで温室の屋根に向かって落ちていくシーンが、あまりにもひどいのでがっかりしました。アレじゃあ、落ちたのは人ではなく、モノです。もうちょっと表情を映すなり、方法があったでしょうに…と思いました。

 本作、話が難しい分、京極堂の謎解き部分に納得いかなかった人が多かったんじゃないでしょうか? だいたい、事件が起こったことが見た人の意識の中に刷り込まれていないのに、謎解きが始まってしまった、そんな印象なんではないかと思うのです。おどろおどろしい因縁話に光と影を巧みに使った映像と頻繁に炸裂する効果音のおかげで、作品の雰囲気は盛り上がっていきますが、肝心のストーリーが、よく分からないうちに憑き物落としが始まった、なんで?みたいな。で、憑き物落としの衝撃的な映像で、ハッとさせられてから、淡々とした謎解きで目いっぱい説明聞かされてもなぁ…って、見た方、思いませんでした?

 京極堂を訪ねる妖怪好きの兵隊帽の男が何度か現れます。原作者の京極夏彦さん本人です。クレジットを見て、「水木しげるさんの役なんだ!」と思いましたが、紙芝居屋が新しい紙芝居として“墓場の鬼太郎”をやり始めるシーンでニヤリと笑った意味が、クレジットを見てやっと分かりました。京極さん本人は、「京極堂シリーズはテレビに限らず映像化はしない方針だ」というようなことを、原作が書かれた1994年当時におっしゃっていたと記憶しています。こうして本人ご登場というからには、ある程度満足のいく映像作品に仕上がったという感想はお持ちなんでしょうね。ボクはちょっとガッカリしましたけど…この映画を見て、原作及び京極堂シリーズの分厚い本を読もうと思った人は、ほとんどいないんじゃないかな? 少なくともボクには、原作の面白さはまったく伝わって来ませんでした。むしろ、原作を知らずに見たほうが、純粋に映画として楽しめたかも知れません。うん、たしかに、映画としては、楽しめましたよ。

 あ、そうか。コレは、“ミステリー”の範疇だと思って見てはイケません。とっくにはみ出しています。ミステリー映画を楽しみたい方は、コナン君を見てください…^^;)

「この世には不思議なことなど何もないのだよ」---このセリフ、最後の最後まで聞かされて、正直ウザかったです。これはヤメて欲しいな、と思っていたんですけど、エンドクレジットの済んだあとの、ホントに最後にもう一発、しかも堤さん本人の喋る映像付きで…台無しだ、このヤロー!!

●監督:実相寺昭雄 ●原作:京極夏彦(小説「姑獲鳥の夏」)

《原作です》

姑獲鳥の夏 (講談社ノベルス)

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