一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

父と暮せば

私的評価★★★★★★★☆☆☆

父と暮せば 通常版 [DVD]

 (2004日本)

 広島にピカ(原爆)が投下されてから3年後、図書館に勤める美津江(宮沢りえさん)は、愛する者たちをピカで失いながら、自分だけが生き残ったことへの負い目で自分を責めながら、さりとて自ら命を絶つ勇気も持てずに、ひっそりと暮していました。そんな彼女の前に原爆資料を集めている木下(浅野忠信さん)という青年が現れ、一目で魅かれてしまう美津江でしたが、「自分は人を好きになったりしてはいけない。」と自分の気持ちを押さえつけ、恋をあきらめようと自分に言い聞かせるのです。そこへ、ピカで亡くなったはずの父の竹造(原田芳雄さん)が現れました。父は美津江の恋心が自分を実体化させたのだと語り、彼女の恋の応援団長として、彼女の心を開かせようとします。


 どうも、コテコテの広島弁で、なかには聞き取りにくい表現もいくつかあるんですが、気にせず見進めていたら、そのうち耳に馴染んできました。不思議ですね。

 基本的に宮沢りえさんと原田芳雄さんのふたりのお芝居ですので、ふたりの演技を堪能すべき作品です。ふたりの親子の会話がとても軽妙で微笑ましく、特に、父に心を許して甘えた風な宮沢さんの自然な感じには、とても惹かれました。惚れてしまいますね。

 美津江と木下の恋をほのぼのとしたホームドラマ風に語りながら、間に原爆をイメージさせる映像を多々はさみ込む、基本的には原爆の悲劇を後世に伝えるべき手法としての映画なんだな、と感じます。そのへん、劇中でも父親が一寸法師の話に原爆瓦を取り入れて話を作る、というあたりに、同じ発想を感じました。その目的は十分効果あったと思います。もう幼いころから原爆の話をうんざりするほど見聞きし、学校の図書館で「はだしのゲン」を借りて読み漁り、原爆資料館も訪れ、十分知っているつもりでいましたが、改めてこの映画で語られた原爆に接して、核兵器廃絶を願う人々の気持ちに強い共感を覚えました。

 しかし、そのメッセージ性が強いため、逆にドラマの部分の印象が、最後の最後に、微妙に飛んでしまったような、そんな気がします。それは、ピアノ音楽のトーンが少々暗すぎるきらいがあったせいでもあります。ドラマの最後が、本来希望に満ちてもいい雰囲気なのに、あくまで原爆の悲劇を引きずるのか、暗い音楽で終わってしまうので、なんともいえない、消化不良のような不快感が残ってしまったのです。映画の印象は、どんな終わり方であったか、という部分がかなり大きいので、ちょっと残念です。おふたりの演技がすばらしかったので、よけいにね。

●監督:黒木和雄