一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

東京上空いらっしゃいませ

私的評価★★★★★★★★☆☆

東京上空いらっしゃいませDVD
東京上空いらっしゃいませ [DVD]

 (1990日本)

 新人モデルの神谷ユウ(牧瀬里穂さん)は、キャンペーンのスポンサーの白雪専務(笑福亭鶴瓶さん・二役)の好色な誘いから逃れようと車を飛び降り、後続車両にハネられて死んでしまいました。ユウは、東京上空へ昇っていく途中、死神のコオロギ(笑福亭鶴瓶さん・二役)をうまくだまして、元の姿のまま地上に舞い戻ることに成功し、彼女の担当だった広告代理店の雨宮(中井貴一さん)のマンションに居ついてしまいます。コオロギはユウに、「事故死したことを知っている人に会ったら地上にいられなくなる」という警告をします。ところが、スキャンダルを恐れた白雪専務の隠蔽工作のおかげで、ユウの死亡は世間に公表されなかったため、ユウはひとりのふつうの高校生として自由気ままな時間を過ごすことを決めます。ハンバーガーショップでのアルバイトを心から楽しむユウ、そんな彼女を見守りながら、雨宮は彼女の生活を守ってやりたいと思うようになります。しかし、突然白雪専務が心変わりし、ユウの死亡をネタにキャンペーンをより刺激的に盛り上げようと画策したことから、ユウは居場所を追われる危機に直面します。


 死んだのに死にきれない少女のファンタジーは、少女漫画をベースに多く見かけますが、この作品の設定は異色です。なにしろ、姿が鏡やフィルムに映らないくらいで、生きているのとほとんど変わらないのですから。なので、事故死を知っている人と会ったら死後の世界に連れて行かれるという約束事が発生するワケですが、ユウはその約束をあまり重く受けとめておらず、亡くなったばかりの実家には戻るわ、自分の顔がところかまわず広告看板で露出しているのに、街中を堂々と闊歩し、アルバイトにも精を出すわ、もう見ていてハラハラしっ放しです。妙にあっけらかんと、明るく振舞うところが、最後には逆に切なさを引き立てることになるワケですが…。

 死んでしまったことを自覚していながら、その事実を封印し、無理やり元気に振る舞いながら生を謳歌するユウの姿は、ドラマの初めでは妙にふざけているように見えますが、ドラマが進むにつれて、そのふざけているように見えた部分も含めて、ただただ「切なく」なってきてしまいます。死を自覚したときから、ユウは「今が一番イイ」ということに気づきます。生きているとき、キャンペーンガールとして忙殺されているときには、決して気づくことのなかった時間でした。


 本作が映画デビュー作だった牧瀬里穂さん、やんちゃで清々しい少女を演じていて、とてもドキドキしました。セリフはまだまだ棒読みっぽいですが、そこがまた初々しくて、等身大の少女を感じさせてくれます。本作は、牧瀬さんを、ほとんどいじらずに出演させているような気がします。そのせいか、彼女がとてもキラキラ輝いて見えます。当時、牧瀬さんが好きで、同年の“つぐみ”に続いてレンタルして見た記憶が蘇りました。

 井上陽水さんの「帰れない二人」が、ヴォーカルや曲調を変えながら何度も作中に流れてきて、効果的に雰囲気を盛り上げています。最後は雨宮とユウの“帰れない二人”が、とても切なくて、思わずほろりときてしまいます。

 DVDの仕様は、ビデオ版をそのまま焼いたようなしょぼい内容です。レターボックスのヴィスタサイズのため、16:9のアスペクト比に画面いっぱい引き伸ばすと、ザラザラした画になってしまいます。快盗ルビイほどひどくはないですが、よい作品だけに、できれば高画質版を発売して欲しいところです。

●監督:相米慎二