一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

ギミー・ヘブン

私的評価★★★★★★☆☆☆☆

ギミー・ヘブン スタンダード・エディション [DVD]

 (2005日本)

 ヤクザ(鳥肌実さん)の下請けで、都市の至るところに仕掛けられたビデオカメラを使い、顧客の嗜好を満たす映像をネット配信する新介(江口洋介さん)と親友の貴史(安藤政信さん)は、ある日どぶ川を映す1台のカメラに、濡れて倒れている少女が映っているのを見つけ、現場を訪れます。倒れていた少女・麻里(宮﨑あおいさん)は、最近謎の死を遂げた、ある資産家の養女で、その資産家の死体の周りの絨毯には、赤いワインで奇妙なマークが記されていました。それはアンダーグラウンドの世界で死の商人ピカソと呼ばれる謎の人物が記すマーキングで、やがて新介たちの目の前で、不可解な自殺事件が起こったのをきっかけに、ピカソのマーキングが次第に新介たちの周りに忍び寄ってくるようになります。新介はネットゲームからピカソとコンタクトを取ることに成功しますが、ピカソが麻里を狙っているらしいことが分かると、貴史は麻里を連れて逃亡を図りました…。


 ホラーじみたサスペンス映画とでも言いましょうか。根底に流れるテーマは“共感覚”---数字を見て色が認識されたり、味が三角や丸などの形として認識されたり、五感がない交ぜになって感じられるような特殊な感覚なんだそうです。10万人に1人の割合くらいでいるのだそうですが、そもそも自分が感じる感覚と他人が感じる感覚のズレに、いったいどうやって気づくのか、その辺がちょっと不思議です。だいたい、自分が見ているモノが、他人にも同じように見えていると考えること自体、思い込みに任せた幻想にすぎないのです。あくまで脳というフィルターを通してしか認識できないこの世界、それは人間の数だけ違う世界が平行して存在しているということだと。ボクらは脳に騙されて、他人と同じ世界を見、同じ世界に暮らしていると思い込まされ、平穏な日常を過ごしているに過ぎないのです。

 なんだか京極堂の薀蓄じみて来ましたね。話を戻しましょう。

 新介はその“共感覚”の持ち主です。とても大事な情報なのに、画面からは全く“共感覚”について、見るものに訴えかけるモノが見えてきません。ただただ専門医を始め、登場人物の説明的セリフで“共感覚”が語られるばかりで、ストーリーの途中で、共感覚が大事な事件の要素であることをついつい失念してしまいそうになります。五感がない交ぜになった感覚を、特殊な映像で、それこそCGで組み立てて、殊更見せないというのもアリだとは思います。むしろ、その方が映像的には安っぽく陳腐化しないというものでしょう。それでも、もう少し意味深な映像をグイッと脳裏に焼き付けるようなインパクトがあってもいいのかな、なんてことも思いました。意味深な映像は、確かに出てくるんですよ。パソコンの壁紙の模様、それが一体どんなモノに見えているのか、確かに気になりました。

 ストーリーは、けっこう先が気になってぐいぐい引き込まれ、サスペンス映画的には、面白い展開でした。ところが、全体的に展開が淡白で速いというのか、ちょっと説明不足を感じる部分があったり、逆にクライマックス付近で説明不足を解消するための実にあざとい説明的セリフが挟まれたりと、ややシナリオがこなれていないと感じる部分がありました。

 クライマックスは---「へぇ〜。そう…」。ちょっとインパクト弱いなぁ。動機がすんなり受け入れ難いと感じました。クライマックスに至るまでをまとめるのにパワーを割き過ぎたのか、クライマックスに事件の解決編を詰め込み過ぎという、胃もたれに似た消化不良を感じざるをえません。動機をゆっくり考えれば、それもアリだよな、と理解できます。しかし、クライマックスの短い時間に一気に辻褄を詰め込んだおかげで、犯人の感情の流れを追いかけることが不能になりました。よって、泣いてもいい場面なのに、泣くに泣けない、感情を高ぶらせることができない、そんなジレンマに陥ってしまったのです。

 “共感覚”については一生懸命みんなに説明させるのに、登場人物の感情はあまり説明しない、どうぞ、見た方がいろいろと想像して、それぞれで感じてください、って感じなんでしょうね。感情を説明臭くしないところは好感持てる演出です。あとは、共感覚を持つ者に感情移入できるかどうか…その辺が、1回見ただけでは、難しいかな、と感じました。

 石田ゆり子さんの刑事役、シナリオ的にストーリーの本筋への絡み方が弱いのに、石田ゆり子という女優の“顔”が目立ち過ぎかな、と。その辺は人それぞれ感じ方は全く異なるのかも知れませんが…。

 宮﨑あおいさん、今NHK連続テレビ小説に出演なさってますが、そっちは明るめのキャラで、それはそれでキュートだなと思うのですが、以前見た『青い車』で、暗い少女の役を演ってるのを見て以来、彼女には麻里のような感情を抑えたキャラがとても嵌まる、という目で見てしまいます。若いけど、すでに女優としての格を持っているようです。

●監督:松浦徹