一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

千年火

私的評価★★★★★☆☆☆☆☆

千年火 [DVD]

 (2003日本)

 11歳の聡(村田将平さん)は、幼いころに母を亡くしてから、売れない絵描きの父・隆一(鶴見辰吾さん)と東京でふたり暮しでした。ある日、父が事故で亡くなり、父の故郷・福岡の新宮町という海辺の町にいる祖父母(金内喜久夫さん・吉行和子さん)に引き取られることになった聡は、父を失ったことから一切口をきかなくなりました。新宮の町で1200年もの間ひとつの火を絶やさず守り続けている老医師・オキナ先生(丹波哲郎さん)のもとを訪れた聡は、聡と同じく両親のいないあゆみ(山下奈々さん)と出会います。


 少年の心の再生の物語---「文部科学省選定(少年、成人、家庭向)」「福岡県教育委員会推薦」というのを聞くと、「ああ、きっとドラマ部分が薄いんだろな」なんて、最近はヒネた見方をしてしまいます。新宮町の町おこしのために撮られた映画なんですかねぇ? 新宮町の自然、町並み、人、確かに美しいですよ。でもね…瀬木監督のコメントがDVDのライナーノーツというのか、挟んであったんですけど、「映画が自然に支配されている限り、演出者の思い通りにはなりません。」て…結局新宮町の風景を全面に押し出すことに引きずられて、ドラマ部分がつぎはぎだらけな印象を拭えません。

 たとえば、父・隆一が亡くなったことが冒頭よく分かりませんでした。また、お祖母ちゃんが「あの子、隆一が死んだのは自分のせいだって思い込んでるんです」ってセリフ、なんで?---DVDのジャケットには、「父さんのバカ、死んじゃえ」と聡が呟いた夜に、隆一は事故死したことになっていますが、そんなセリフは出てこなかったのです。それから聡が立ち直るきっかけがさっぱり見えてきませんでした。直前まで散々父の幻影を見続けて、とても立ち直れそうな予感がしてこなかったのに、浜辺で父の幻影の去ったあとに落ちていた鉛筆1本で何かをつかんだとしか思えないのですが、そのへんをまったく画にしてみせてくれませんでした。「え、なんで急に祖父ちゃんの漁に着いていく気になったの?」て、ツッコミいれたくなります。現実社会なら他人が見ていないところで、いろいろとあって立ち直り、その過程を他人が目にすることはありませんが、映画でここまで端折られると、なんかしら不満が残りますね。ほかにもしつこいくらい町の人が聡に声をかけるけど、さっぱりドラマに絡んでこない…いや、役者さん以外にエキストラのおばちゃんたちも大勢いたワケだけど、役者さんですら通りすがり的で、その場限りの登場なんだな、これが。なぁんか、雰囲気まかせで、演出できてない感じ。

 全体にBGMも暗い調子なので、盛り上がることは決してありませんし、聡が立ち直っても、決してドラマティックなことはありません。淡々としています。そしてエンディングもとても拍子抜けするくらいに、あっさりしています。なんかねぇ…。

 脇役というか、ちょい役で、懐かしい顔を見ました。漁港でラジカセ鳴らしながら一輪車でダンスを踊っている陽気な漁師…すわ親治さんは、かつてドリフターズの付き人という立場ながら、当時全盛を誇っていた“8時だヨ!全員集合”にも見習いとして荒井注さんと志村けんさんのメンバー交替の間をつないでいたのです。ブルース・リーのマネをするくらいしか芸がなかったのですが、この映画では、なかなかいい味だしてましたね。

 ソフトの不満をひとこと。事前に仕様を見てスクイーズだと思ってたんです。ところが、実際はレターボックスのヴィスタサイズ。なんでやねん?と思ってよくよく見ると、確かにレターボックスとスクイーズの両方表示があります。なんと、おまけの別作品の予告編のみがスクイーズだったんです。これは不当表示に近いですね。おまけ映像だけなら表示しなくてもいいのに、と思うのはボクだけではないはずです。ちょっと考えてほしいですね。それから、そもそも問題なければ本編をスクイーズ仕様にすべきです。91分と短い映画なんだし。

●監督:瀬木直貴