一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

恋のしずく

私的評価★★★★★★★★★☆

恋のしずく [Blu-ray]

 (2018日本)

かぎりとて 別るる道の 悲しきに いかまほしきは 命なりけり (桐壺更衣)

 ワインソムリエを目指す農大の学生、詩織(川栄李奈さん)だが、実習先に決まったのは大の苦手とする日本酒の、その酒蔵。実習単位を取らなくてはフランス留学が夢で終わるため、渋々、東広島・西条にある乃神酒造に出向くが、今年は実習生の受け入れ予定はないと断られる。詩織は食い下がり、農家の娘・美咲(宮地真緒さん)の助けでなんとか実習ができることに。だがそこで始まった実習はまるで修行だった。そんな中、彼女は蔵元の息子・莞爾(小野塚勇人さん)と最悪の出会い……。(WOWOWの番組内容から引用)


 冒頭のシークェンスで、詩織がワインソムリエのような鼻につく物言いでワインの鑑定を行う、活性型ALDH2酵素持ってるのでお酒に強い、なぜか日本酒だけ泥酔したことがトラウマになっている、ワイナリーの実習先が高倍率になって困った鷹野橋教授(津田寛治さん)にあみだくじで実習先を日本酒の酒蔵に決められた、という流れが8~9分くらいの間にサラッと収められてますが、なかなかそそるオープニングです。冒頭の短い尺でも、川栄さんが、イイ感じに役にはまっているのを感じました。

 全編通して、広島ことばが耳に心地よく響きます。
 莞爾のおじで神主役の丹古母鬼馬二さんの、酔って絡む演技が素晴らしかったです。広島弁でいかつく迫り、終いには可愛く泣き崩れてしまう親戚のおじさん、見事でしたね。

 ひしめく瓦屋根とレンガ造りの煙突から立ち上る蒸気、西条の酒蔵が集まる町並みを見下ろす映像を見ていると、なんか神々しいまでに美しい景色に胸を打たれ、心が震えました。
 本当に酒の神様が、そこにおわしますのかも知れません。
 高台から見下ろす瀬戸内の多島美、大勢の酔客でにぎわう西条の酒祭り、橋めぐりで回る穏やかな広島の街並み、美しい映像の数々が、心にしみます。

 酒造りの工程の描写は、さほど長くはありませんが、日本酒の特徴だったり、日本酒の楽しみ方だったり、洋食にも合う日本酒の懐の深さだったり、随所にさりげなく日本酒の良さをアピールする部分が織り込まれています。飲めないけどw、飲んでみたくなりました。
 ただ、どの工程もとても体力のいる作業の連続だな、と感じ、それゆえか、川栄さんの作業がちょっとオママゴトに見えてしまったのは残念です。

 とは言え、作品そのものは、とても良かったです。
 日本酒の魅力を発信する、西条の町の魅力を発信する、ドラマ部分もしっかりと見せる、そういう要素をうまくまとめて、すぅーッと腑に落ちる脚本に仕上げた鴨さんの手腕、イイ仕事をされたと思います。
 ドラマ部分は、母の死をきっかけに壊れた酒蔵の親子の関係修復と、二組のカップルの恋の行方を、巧みに描き分け、ストーリーにうまく馴染ませていると思いました。
 どの人間関係も、あざとさを感じさせない、さわやかな収め方でした。

 最後のシーン、発車のベルに掻き消されたセリフ、すごく良かったです。
 なんか、最後の最後に妙な終わり方だったら、どうしようとドキドキしてしまったんですが、監督も脚本家も、落とし方をわきまえてらっしゃってて、ホッとしました。
 ベタッとしたハッピーエンドより、終演後のその先を想像させる、ステキな終わり方で胸にジーンとしみました。



 2018年〈平成30年〉2月21日に66歳で他界された大杉漣さん、本作が最後の出演映画公開作品だったそうです。本作も存在感たっぷりの蔵元役、ステキでした。謹んで、ご冥福をお祈りいたします。

 また、本作の収益の一部が2018年7月の西日本豪雨の復興支援活動に寄付されたとのこと、ご覧いただいたみなさま、ありがとうございました。


瀬木監督は、この作品を撮った監督さんでしたか。 
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●監督:瀬木直貴 ●脚本:鴨 義信