一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

砂の器

私的評価★★★★★★★★☆☆

<あの頃映画> 砂の器 デジタルリマスター版 [DVD]

 (1974日本)

 蒲田の国鉄操車場で殺された身元不明の老人の事件を追って、警視庁の今西刑事(丹波哲郎さん)と西蒲田署の吉村刑事(森田健作さん)のふたりが、必死の聞き込みを行った結果、事件の前夜蒲田駅前のバーで被害者と若い男が話をしていたことが分かり、ふたりの会話を聞きかじったホステスの証言で、老人の話した東北弁の「カメダ」という言葉が浮かび上がってきました。東北各県の警察本部に被害者とカメダを結びつけるような案件がないか照会をしたところ、該当する事件・行方不明者は見つかりませんでした。今西は、カメダは人名ではなく地名ではないか、と思い立ち、吉村を伴って秋田県の亀田を訪れますが、そこでも手がかりはつかめず、ふたりは手ぶらで東京に帰る夜行列車に乗りこみます。その列車の食堂車で、ふたりは今をときめく人気・実力を兼ね備えた若手音楽家の和賀英良(加藤剛さん)に遭遇しました。そして蒲田西署の捜査本部は十分な手がかりをえられないまま解散し、捜査は警視庁の継続捜査に移ります。吉村はたまたま読んだ新聞のコラムで、中央線の走る列車の窓から白い紙吹雪を撒き散らす女の話を目にしました。吉村は白い紙吹雪から、被害者がバーで話していた若い男の白いスポーツシャツを連想し、真相を確かめるため、女の行方を捜査し始めました。ところが吉村が女(島田陽子さん)の勤める銀座のクラブで、紙吹雪のことを尋ねると、女は中央線には乗っていないと告げたまま中座し、そのまま行方をくらましてしまったのです。クラブで中座した女の帰り待っている吉村の前を、音楽家の和賀が来店して来ました。和賀は前大蔵大臣の令嬢を連れていました。一方、被害者の老人の身元確認をしたいと、岡山から青年(松山省二さん)が上京し、被害者が岡山で雑貨商を営む三木謙一(緒方拳さん)であることが判明しました。しかし、三木は東北とは全く縁がないことが分かり、事件は振り出しに戻ってしまいます。


 画面にチラチラと姿を見せる和賀が、このあとさまざまな場面に登場してきます。このミステリ作品は、誰が犯ったか、より、事件は何故起こったのか、というところが重要なテーマになっています。あちこちで本作のレビューが流れているでしょうが、どこまで書こうか迷っています。ネタバレしてもいいかな、というところまで書こうかどうしようか、というところです。やっぱり止めておきましょう。

 和賀は「宿命」というピアノ協奏曲を作曲します。クライマックスはその曲の発表会であり、全曲演奏とともに和賀の脳裏をよぎる回想シーンが、このドラマのオリジナリティをいかんなく発揮し、盛り上げていることは、多くの方のレビューにもあります。この曲が、実に“重い”のです。その重さは、背負った“宿命”の重さなのでしょうが、ともすると、いたたまれなくなります。回想シーンに浮かぶ四季折々の日本の田舎の風景は、その時代の端っこを経験している世代には、「美しい」というよりも「辛い」と感じるのではないでしょうか? ボクはとうに亡くなった曾祖母の田舎の住まいを思い出し、辛くて仕方ありませんでした。画面は明るい田舎の風景なのに、連想するのは暗い日本の農家のたたずまいなのです。おそらく、若い世代には共感しえない感情でしょうね。

 重厚な作品ですが、野村監督の手腕なのでしょう、とてものめりこみやすい作品構成になっています。のっけから、ふたりの刑事が懸命に全国をかけずり回る捜査シーンは、2時間サスペンスに馴らされた目には、親しみを感じるのではないでしょうか?

 加藤嘉さん、佐分利信さん、山口果林さん、稲葉義男さん、穂積隆信さん、笠智衆さん、春川ますみさん、渥美清さん、菅井きんさん、殿山泰司さん、名優が小さな役どころでもしっかり脇を固めているのも見逃せません。

 日本映画史に残る名作のひとつでしょうね。

 ところで、「砂の器」の意味するところは、なんなのでしょうか? 映像には確かに出てくるのですが、あくまで回想シーンのひとつであり、いったいそれがどういった感情に結びつく思い出なのか、映像を見てもピンと来ませんでした。原作を読んだ方がいいかもしれません。

●監督:野村芳太郎 ●脚本:橋本忍山田洋次 ●音楽:芥川也寸志 ●作曲:菅野光亮 ●原作:松本清張(小説「砂の器」)