一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

つぐみ

私的評価★★★★★★★★☆☆

あの頃映画 「つぐみ」 [DVD]

 (1990日本)

 白川まりあ(中嶋朋子さん)は、この4月から東京で大学生活を始めたばかり。海の見えない東京の片隅で、ときおり鼻をくすぐる東京湾の香りは、高校生まで過ごした西伊豆の海を、まりあに思い起こさせます。夏休みを前に、西伊豆の山本屋旅館の従姉妹、陽子(白島靖代さん)と妹のつぐみ(牧瀬里穂さん)から電話があり、まりあはひと夏を彼女たちの家で過ごすことにしました。まりあと同い年のつぐみは、生まれつき体が弱く、医師から短命を宣告されていたため、幼いころから甘やかされ、粗野でわがままな少女に育っていました。口が悪く、人の嫌がることを平気でやってしまうつぐみは、まりあともしばしばケンカをしてきましたが、死の恐怖を押さえ込むようにして強がるつぐみを、まりあは放っておけず、いつもそっとそばに寄り添っていたのです。やさしい思い出のようにゆったりと流れる18歳の夏、まりあとつぐみは美術館に勤務する恭一(真田広之さん)という青年と出会いました。つぐみは恭一に一目で惹かれてしまい、ふたりは自然とつきあうようになります。ところが、つぐみを執拗に追い回す不良青年(吹越満さん)たちが、仕事帰りの恭一を傷つけ、さらにはつぐみの愛犬をさらって殺す事件が起きてしまいました。深い悲しみの果て、自らの命を削るような復讐を企てたつぐみでしたが、その思いを遂げることもかなわず、過労から倒れ、救急車で運ばれてしまいます…。


 このあと、つぐみがどうなってしまったのか分からないまま、夏が終わり、まりあは東京に戻ってしまいます。そしてまりあの元に、手紙が届きます。まるで死を予感させるような、弱気なつぐみの独白…。

 西伊豆松崎町、穏やかな海辺の町に流れる夏の日々。明るい夏空に映える美しい昼の海、黄泉を思わせる憂いをたたえた青い夜の海。ときに激情のあまり周りの人を傷つけ、それ以上に自ら傷ついてしまう。誰よりも生への執着があるのに、口をついて出るのはネガティブなのろいの言葉ばかり。そんなつぐみを見守る家族、従姉妹のまりあ、そして恭一。初めはつぐみの言動にイライラさせられつつも、恭一と出会ったことから、つぐみの素直な思いが少しずつ引き出されるようになると、いつしかそのせつない思いに心惹かれ、画面に引き込まれていってしまいます。無常の悲しみに胸が張り裂けそうになったり、ささやかな喜びに胸がいっぱいになったり。

 本作は恭一が傷つけられたり、つぐみの愛犬が殺されてしまったりするような残酷なエピソードがいくつかあります。特に恭一のバイクがいじられて、エンジンをかけた途端爆発するシーンなんかは、かなりドキッとさせられますし、愛犬がさらわれ、死骸となって見つかるまでの間は胸が張り裂けそうになります。しかし、理不尽な暴力などのためにことさら胸が痛むようなシーンを見せたくないという監督の配慮があったのか、爆発シーンは、するりと画面からバイクが消えた直後に、爆音と黒い煙のみ見せるにとどまり、乱闘シーンでは、ひたすら遠方に引いたカメラで浜辺全景を映すことで、直接的な視覚的痛みを和らげ、愛犬の亡骸は決して死骸と分かる距離では見せない、そういうやさしい画作りになっています。本作の性格を考えれば、たいへん気が利いていると思いました。


 1990年、東京上空いらっしゃいませで映画デビューした牧瀬里穂さんが、同じ90年に出演した作品です。棒読み口調のやんちゃな少女ぶりの牧瀬さんが、とてもかわいいのです。額の真ん中あたりでぱつんと切り揃えた前髪、スッと立ち上がった華奢でもろそうな肢体。まりあの思い出の中で暴れまわるつぐみのエピソードの数々から、牧瀬さんがつぐみのキャラをくっきりと立ち上げて見せ、恭一との出会いでゆるやかに変わっていくさまを一生懸命に演じて見せてくれます。当時は牧瀬さんが好きで、レンタルビデオで見ました。でも、今見ると、中嶋朋子さんが断然ステキでした。ボクの中で、趣味が変わったかも…^^;)。

 今回はずいぶん前にBSで放送され、ビデオに録っていたモノを、再度鑑賞しました。レンタルしたときは、真田さんの背中にしっかりと身を寄せる牧瀬さんの姿が載ったパッケージが、とても印象深かったです。いまだにDVD化されていませんが、DVD化されたら絶対買います。

[2012/4/22追記]
DVD化されたので、AMAZONでポチッとしときましたw

●監督・脚本:市川準 ●原作:吉本ばなな(小説「TUGUMI(つぐみ)」)

《原作です》

TUGUMI(つぐみ) (中公文庫)

TUGUMI(つぐみ) (中公文庫)