一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

ヒナゴン

私的評価★★★★★★★★☆☆

ヒナゴン [DVD]

 (2005日本)

 30年前、広島県の県北の小さな町・比奈町に、大型のサルのような怪物“ヒナゴン”の目撃情報が、石井健作老人(夏八木勲さん)によってもたらされると、怪物の噂は一気に日本中に広まりました。一躍全国の注目を浴びることとなった町では、ただちに類人猿課を立ち上げ、怪物の情報を集めたりしましたが、やがて週刊誌にヒナゴンはデマだとする記事が載ると、一気に噂は沈静化し、類人猿課も廃止、健作はホラ健とまで呼ばれるようになったのです。その比奈町に、30年ぶりにヒナゴンの目撃情報が飛び出しました。かつてのガキ大将で元暴走族のヘッドだった町長のイッちゃん(伊原剛志さん)は、小学校のころ山でヒナゴンに遭遇したことがあり、早速役場に“類人猿課”を復活させると、イタズラ仲間だった総務課長のドベこと吉岡純平(上島竜兵さん)を筆頭に、ヒナゴンの存在を信じ続ける小学校教員の島本順平(松岡俊介さん)、順平の同級生で教育委員会の西野俊彦(柳家花緑さん)、同じく順平の同級生で、東京からUターンしてきたホラ健の孫の石井信子(井川遥さん)を類人猿課に集めます。順平は子どもたちに“想像すること”の大切さを知って欲しいと願い、ヒナゴンの姿を想像して描くことを授業に取り入れました。しかし、中には未知の生物を想像することに戸惑いを覚え、ついには白紙のまま課題を提出する子どももおり、順平の目論みは必ずしも思ったとおりの成果をあげられません。また、久々に比奈町に活気が戻るかと思われたヒナゴン目撃情報でしたが、類人猿課に集まるのは荒川老人(佐藤允さん)から寄せられる情報ばかり。信子たちが目撃情報の信憑性に疑いを持ち始めたころ、比奈町は隣の備北市との合併問題がクローズアップされ、合併を拒むイッちゃんと合併を推進する西野との間で町長選が行われることになり、類人猿課の存続も危うくなってきました。


 広島県比婆郡西城町でヒバゴンの目撃例が評判になったとき、ボクは多感な小学生時代でした。落書き帳にヒバゴンを主役にしたマンガを描いた覚えもあります。逆三角形の顔をしたサルでしたが^o^;) で、主役のひとり、伊原剛志さんは、なんとボクと生年月日が同じなんですね。伊原さんがどういう少年時代を送ったかは知りませんが、同時代にヒバゴンの噂にムネ踊らされた世代であることは間違いないでしょう。そんな伊原さんを中心にかつての悪ガキどもが30年ぶりに集結して、合併に揺らぐ山間の小さな町と子どもたちの未来を彼らなりに考えて見せてくれる、そんなヒューマン・ドラマです。

 少年時代のイッちゃん、伊原さんに目元なんかソックリ!と笑ってしまいました。ほかの子も割と似ている子を選んだんでしょうね。回想シーンと現代の人物関係が、分かりやすかったです。

 イッちゃんを取り巻くドベや、かつての右腕で今や町長と対立する町会議員のカツ(鶴見辰吾さん)、どじでトラブルメーカーのナバスケ(嶋田久作さん)たちが、現実に直面し、対立するさまざまな問題とは別に、かつての友情をいまだに大切にしているエピソードには胸を打たれます。厚い友情が羨ましいし、永ちゃんの『成りあがり』をバイブルに生きるイッちゃんの男気が、ときどきマジでカッコいいと思えます(けっこう笑わせようとしてスベッているシーンも多いんですが…w)。

 不況や過疎に悩む小さな町で暮らす人々のやるせなさやぶつける先のない憤りが、町長選の候補者討論会の場で、激しい怒号となって飛び出します。広島なまり、キツいな、と。それだけに、生々しさあるな、と(もう少しキツかったら、胸が痛むところでしたが、寸止めくらいかなw)。そんな痛ましい住民の叫びと対比するように、クライマックスでは、ヒナゴンの想像画を白紙で提出した少女が、信じることの大切さを知るエピソードに登場します。抑えに抑えた演出の妙に、ボクは泣けました。

 原作は直木賞作家の重松清さんの書き下ろしですが、実は井川遥さんを主演に据えた映画のために書き下ろされたモノらしいのです。しかし、井川さんがことさら目立っていなかったことが、私的には好感を覚えました。

●監督:渡邊孝好 ●原作:重松清(小説「いとしのヒナゴン」)