一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

あなたと私の合言葉 さようなら、今日は

私的評価★★★★★★☆☆☆☆

あなたと私の合言葉 さようなら、今日は [DVD]

 (1959日本)

 東京でカー・デザイナーの仕事をしている和子(若尾文子さん)は、親同士の決めた許婚の半次郎(菅原謙二さん)との結婚に、今ひとつ気乗りがしません。大阪に赴任している堅物の半次郎の本気度を量りかねるのと、母を亡くして以来、失業中の父(佐分利信さん)とスチュワーデスの妹・通子(野添ひとみさん)の世話が手放せないことが理由のようでした。和子は半次郎に婚約解消を持ち出したいと考えますが、うまく切り出せずにいたのです。そこへ和子の学生時代の先輩で、料亭の女将の梅子(京マチ子さん)が、大阪から上京してきます。梅子は自分のメガネに適う男になかなか巡りあえないことから、今は結婚するより自分の料亭の経営に専念することに意欲を燃やしており、今回の上京も東京のデパートへの出店計画を進めるためでした。和子は陽気でさっぱりした性格の梅子に、大阪に戻って半次郎に婚約解消の件を、うまく話して来てほしいと頼みます。ところが、梅子は半次郎に会ったとたん、彼に一目ぼれしてしまったのです。


 1959年当時、カーデザイナーなんて横文字の肩書きの女性が主人公というところが、目新しいような気がします。ところどころに出てくる和子の仕事振りは、クールで聡明で、妥協を知らない生真面目さながら、力みを感じさせないところが、新鮮。しかし、家に帰ると不器用な父のために、台所などの家事に勤しみます。失業中の父が「今夜はわしがしてやる」と言っても。そういったところなどを見ると、和子は頑なに気を張って生きているのかもしれません。

 妙な男気を出して突然会社を辞めた父親。珍しく飲んで上機嫌で帰宅したかと思うと、たらたら自分を正当化するための言い訳をかます---そのシーン自体は見苦しい感じはしないんだけど、男の情けなさを感じずにはいられませんでした。その父親が、和子が半次郎との婚約を解消したことを知って友人からの縁談話を持ち出しながら、見合い当日になって、腹が痛いの熱があるの、なんだかんだと言って、結局和子が見合いに出向くのを辞めると、とたんに機嫌よくなってしまうという件があります。気持ちは分からないではないですが、ちょっとうんざりしてしまいました。

 和子は梅子に気持ちを打ち明けられて、初めて半次郎への自分の気持ちが揺らぐのを感じたようです。まだ和子が本気で婚約解消したと思っていない半次郎は、大阪に出張で来ていた和子を誘い出し、彼女の気持ちを確かめるのですが…。

 梅子が和子の父に向かって投げかけた言葉、それを受けて父が和子に返したやさしさ。「歳をとると、いろいろ捨てなければいけないものが出来てくる」

 幸せなカップルの誕生、結婚。さわやかでハッピーなお話なのに、ホロ苦い。切ない。人生は、すれ違いの連続だろうけど、改めて教えられると、いろいろと考えさせられてしまいます。90分足らずの短めの映画ですし、ありふれているといえばありふれたテーマのホームドラマですが、見終えたあとに充実感のある作品です。

 和子はときどきメガネをかけます。両端が吊り上っているのは、当時の流行でしょうか? メガネのスタイルからは『教育ママゴン』なんて流行語を思い出しますが、美しい方がかけるとキュートです。メガネは、彼女の頑なで融通のきかない生き方を象徴するための、アイテムのように見えます。渡米する船上でかけるメガネは、未来に向けて羽ばたこうとする彼女の決意の表れ? 結婚だけが人生の花ではないことを、女性が信じ始めたころの映画なのでしょう。

 川口浩探検隊の川口さんは、こんな顔だったかなぁ…実は番組ほとんど見た記憶もないし、川口さんもすっごく若いころの映画だからよけいピンと来ないのですが。役柄では和子の妹・通子に結婚を申し込まれるのですが、この映画の翌年、実際に野添ひとみさんと結婚されてるんですね。あと、船越栄一郎さんのお父さんの船越英二さんも出演されています。

 原版が古いためでしょう。ブチッ、ブチッと破裂音のようなノイズが多く、また音声が明瞭に聞き取り難い箇所がけっこうありました。残念です。

●監督:市川崑