一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

ALWAYS 三丁目の夕日

私的評価★★★★★★★★★★

ALWAYS 三丁目の夕日 通常版 [DVD]

 (2005日本)

 昭和33年、上野駅に青森から集団就職の学生を乗せた蒸気機関車が到着します。自動車会社への就職に胸をふくらませていた少女・六子(堀北真希さん)は、迎えに来た鈴木オートの社長・則文(堤真一さん)がみすぼらしい三輪オートに乗っていたことに眉をひそめました。やがて建設中の東京タワーを見ながら、六子が案内されたのは、下町の小さな自動車修理工場でした。期待を裏切られてガッカリした六子に則文は作業着を渡しますが、六子は自動車修理などやったことがありません。情は厚いが気が短いのが玉に瑕の則文は、ジャッキひとつ満足に扱えない六子に怒り、彼女が履歴書に自動車修理ができるとウソを書いていたと怒鳴り散らします。妻(薬師丸ひろ子さん)や息子の一平(小清水一揮さん)の必死の取り成しもあって、やがてお互いに誤解があったことが分かり、六子は次第に鈴木一家になじんでゆきます。一方、鈴木オートの向かいで駄菓子屋を営みながら売れない小説を書いている茶川竜之介(吉岡秀隆さん)は、新しくできた飲み屋の女将のヒロミ(小雪さん)から、以前勤めていた店の知り合いの子・淳之介(須賀健太さん)を自分の代わりに育ててほしいと頼まれ、酔った勢いとヒロミがときどき様子を見に家を訪ねるという条件に、ついつい引き受けてしまいます。酔いがさめて、とんでもないことを引き受けてしまったと後悔した竜之介は、初めのうちは厄介払いに躍起になりますが、やがて淳之介が、自分が書いたジュブナイルの大ファンであることが分かると、次第に淳之介に心を開き、なんとなく父親らしい振る舞いをしていくようになりました。


 ボクは昭和30年代生まれです。物心ついて何らかの思い出を語れるころとなると、昭和33年からさらに10年くらいあとになりますが、昭和40年代初めでも、この映画の画面に現れる光景は懐かしいモノばかりです。駄菓子屋の空くじにだまされながらも、いつか目当ての商品を手に入れてやろうと、なけなしの小遣いをつぎ込んだこと。四本の高足で、偉そうに画面に前垂れをかけられた白黒テレビや、立ちの小さな電気冷蔵庫。うちの両親なんか二十歳前後の時代のことなので、なおのこと懐かしがってました。

 VFXがお得意の山崎貴監督が『三丁目の夕日』を撮ると聞いて、「なるほど、そういう方向できたか」と手を打って笑いました。『ジュブナイル』や『リターナー』では、ハリウッドばりのVFXを駆使したアクション映画を撮ってきた山崎監督ですが、彼の映画は、コンピューターを使いながらも、『あくまでドラマを見せることが映画の本質である』という当たり前のことを、当たり前にきちんと仕事しているので、『三丁目の夕日』のようなヒューマン・ドラマを撮っても、ちゃんとした映画に仕上がることが大いに期待できると思ったのです。もちろん、昭和時代を再現するためには、すでにロケだけでは再現できない情景がたくさんあるワケで、そういったモノをオープンセットとともにCG合成で再現する上でも、山崎監督は適任だったと言えます。

 で、期待はまったく裏切られることなく、むしろ期待以上に感動的なドラマに仕上がってました。大人の役者さんのキャスティングもさることながら、子どもたちの演技がとてもこの映画のハートにマッチしていて、非常に微笑ましく好ましかったです。どうしてもテレビでよく見かける須賀健太さんに目が行きがちですが、小清水一揮さんを初め、子どもたちが元気ハツラツだったのが良かったですよ。大人たちのセリフ回しや演技も、安直なドラマにありがちな嘘臭さが微塵も感じられないほどに、自然体でしっかりとしていて、脚本がちゃんと練られていることを感じました。

 この映画を見ると、心が洗われるような気がします。人情という、今や死語となりつつあるんじゃないかと思える、大切な言葉を思い出します。人のやさしさに心を打たれ、涙でぐすぐすになりながら、最後には心がキレイになって、見終えたあとに生きる希望を見出せるような気がしてきます。こういう映画をたくさん見たいし、こういう社会であってほしいと思います。

「自動車で世界に打って出る!」という野望を鈴木オートの則文が叫ぶ場面がありますが、世界ラリー選手権WRC)を転戦している日本の同名自動車メーカーがモデルでしょうか? 余談ですが、ボクの大学時代のサークル仲間がジュニア世界ラリー選手権のとき、スズキのチームクルーとして転戦してました。WRCに昇格してからも転戦してるのかな?

 ロケ地に岡山〜倉敷が何ヶ所かあったのを、DVDを見てから知りました。何ゆえ高円寺で『藤戸のだんご』?と思いながら見ていたところ、お店の外観が、私が通った高校の近くにある藤戸饅頭本店だったのですね。店の中が微妙に違って見えたので気がつきませんでしたが、よくよく考えれば、山崎監督は映画『ジュブナイル』でも、実在の建物の外観だけ使ってまったく映画だけの構造物『神崎ラジオ店』を作って見せていたんでした。そういえば、1年ほど前の夕刻に藤戸饅頭本店に差し掛かる県道を通っていたとき、一時的な交通遮断に出くわしたことがあります。前方で「今映画撮影してますので、少し止めさせていただいております!」というスタッフの叫び声が聞こえ、遠くを見ると、藤戸饅頭本店の小さな路地の間から煌々とした照明が漏れているのが窺えました。時期的にこの映画のためだったのかどうか、微妙ですが、案外短い停止だったので、もしかしたら外観だけ撮影した本作の撮影中だったのかも知れません。スタッフがもう少し近くまで来てくれたら「何の映画ですか?」と尋ねたかったんですがね。これ以外にも玉島辺りで何ヶ所か映画に出ている場所があるそうです。地元の人はチェックしてみてください。

●監督:山崎貴 ●原作:西岸良平(コミック「三丁目の夕日」)