一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

007/美しき獲物たち(A View to a Kill)

私的評価★★★★★★★★☆☆

美しき獲物たち (デジタルリマスター・バージョン) [DVD]

 (1985イギリス)

 シベリアの氷河で殺された003の死体からジェームズ・ボンドロジャー・ムーアさん)が持ち帰った高性能ICは、英国が秘密裏に開発していたものと全く同じ設計で、KGBがフランスの大富豪マックス・ゾリン(クリストファー・ウォーケンさん)の乗っ取った企業から入手していたものでした。ボンドは、ゾリンが競走馬の競売を自分の広大な城で行うことを知り、潜入調査に乗り出します…。


 シリーズ第14作は、ロジャー・ムーアさんの最後の出演作であり、諜報局秘書マニーペニー役で、ここまでの全作品に登場してきたロイス・マクスウェルさんの最後の出演作でした。まぁ、卒業記念ということかどうかは知りませんが、冒頭でエレガントな盛装で登場したマニーペニーたちが、上流社会の社交場といった風情の競馬場に現れ、観戦を楽しむシーンが描かれています。毎度作品の冒頭で、Mのオフィスに現れたボンドとマニーペニーの交わすやりとりは、ロイス・マクスウェルさんならではの大人の女性のたしなみ、みたいな雰囲気があって楽しかったです。15作以降で若返った歴代のマニーペニーには、ちょっと物足りなさを感じるところです。

 本作の敵役のマックス・ゾリンのキャラクターは、歴代の敵役でも3本の指に入るんではないかと思えるほど、冷徹で極悪です。とりあえずICチップの市場独占を狙うという目標は、悪党としてはスケールが小さい気がしますが、クリストファー・ウォーケンさんの演技、目つきや笑い方に独特の厭らしさがあり、かなり悪党としてのキャラが立っていて、エエ感じでした。しかも、ゾリンの片腕の殺し屋、メイデイ(グレイス・ジョーンズさん)が、これまた歴代の殺し屋キャラの中では、ジョーズと並ぶほど強烈なインパクトを放っていて、良かったんです。これだけ悪党のキャラがしっかり出来上がっていたら、ジェームズ・ボンドの活躍が楽しみになるというものです。

 概ね荒唐無稽なエピソードを詰め込んで、思わず苦笑したくなる007シリーズですが、本作はけっこうまともな映画になってますよね。007はスパイ映画というよりアクション映画になってますが、本作はアクションの連発でエピソードをつながず、ちゃんと考えて次の行動に移るという過程が、分かりやすく描かれていると思います。その分、ゾリンの打つ手も納得のいく周到な仕打ちで、ストーリー展開に無駄なテンションがかかっていない気がします。ほかの作品では、よく分からない雑魚に狙われるアクションシーンがけっこうありますからね。一体いつ、誰から、どういった指図を受けて、ボンドを襲っているんだ、という感じの部分です。特に、誰の手先に襲われたのか分かり難いときは、無意味なエピソードに思えますから。ストーリー展開上、意味不明な観光地巡りをやめて、ストーリー進行をすっきりさせているところも好印象と言えます。

 毎度おなじみのカースタントは、今回はアメリカの消防車(ハシゴ車)のトレーラーによる暴走です。直前の火災現場からの脱出シーンからの連続で、けっこう見応えありました。

●監督:John Glen ジョン・グレン