一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

かもめ食堂

私的評価★★★★★★★★★★

かもめ食堂 [DVD]

 (2005日本)

 フィンランドの首都ヘルシンキの街角に開店したおにぎりをメインに出す「かもめ食堂」が、客の来ない日々からやがて満席になるまでの何気ない日常を描いた物語。


 あらすじを書くと、たったこれだけでイイような気がします。ホント、さほど劇的なエピソードがあるわけでもなく、日本かぶれのフィンランド人青年と、何となくフィンランドに流れ着いた日本人観光客の女性2人(片桐はいりさん/もたいまさこさん)と、食堂の主人のサチエさん(小林聡美さん)たちと、それ以外は数人のフィンランド人のお客さんが出入りするばかり。

 本当にゆったりとした毎日が、淡々と描かれているだけ。でも、だからこそなのか、ちょっとした出来事が、ありふれた日常の事件が、とても気になって画面に引き付けられ、見始めたら一気に最後まで何となぁ〜く見てしまう、そんな力を秘めた佳作です。

 フィンランドに流れる時間は、とてもゆったりしているように感じられます。それはたとえ首都のヘルシンキであっても、まったく都会の喧騒とは無縁な感じ。ギラギラした看板だとか、喧しい音楽や呼び込みの声だとかもなく、車の騒音の合間に港を悠然と飛び回るカモメたちの声が聞こえるような、そんな穏やかなたたずまい。童話の世界のような濃い緑に包まれた森と湖の国。登場する人々も控えめで、声高に喋るでもなく、かといって決して他人に無関心でなく、心地よい距離感を保とうとする心配りが感じられるような人々ばかり。

 小林聡美さんの、お店での立ち居振る舞いがとてもキリキリしゃんとしていて、ステキでした。特に、おにぎりを握る姿が、とても美しく、見ているだけでほんわかした気分になれました。競演の片桐はいりさん、もたいまさこさん(このおふたりは、他に替えがたい独特の個性を持った女優さんたちですよね。)も、それぞれサイコーにいい味を出しておられ、見れば見るほどキモチよくなる、癒しを感じる映画でした。

 疲れたときに、ぜひ力を抜いて見てほしいと思います。そう、まさに「ハラゴシラエして歩くのだ」

 ラストにかかる井上陽水さんの「クレイジーラブ」が良かったです。

●監督・脚本:荻上直子 ●原作:群ようこ(小説「かもめ食堂」)