一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

隠し砦の鉄平君

私的評価★★★★★★★☆☆☆

隠し砦の鉄平君 [DVD]

 (2006日本)

 山形の高校に通う透(佐藤直樹さん)は、学校の成績はいいが、クラスでは目立たない存在。購買で競ってパンを買い求める生徒の中に飛び込む気概も無く、妹の由紀(高橋由衣さん)に買ってきてもらうほど気も小さい。ある日、体育館の掃除を終え、箒を倉庫に返そうとした透は、偶然倉庫の奥の「隠し砦」を見つけ、そこで暮らす隣のクラスの鉄平(布川祐輔さん)と出会う。鉄平は母親が亡くなったあと、2週間前に別の女と家を出て行った父親に、「一緒についていかない」ことを告げ、ホームレスになった挙句、体育館倉庫奥の隠し砦にたどり着いていたのだった。なんとなく砦に出入りするようになった透は、次第に鉄平と過ごす時間が増えてゆき、早朝の新聞配達のバイトに付き合ったり、毎週水曜日の夜には教務員のトモさんと3人でお酒を飲んだりするようになっていく。やがて、授業中も居眠りをするようになった透は、妹や幼馴染でクラスメイトの洋子(中村美悠さん)が心配する中、見る見る成績が落ちてゆき、ついには追試を受けるまでになっていた。


 最近の商業映画は、状況説明をご丁寧にしてくれるので、ストーリーは分かりやすいが、明らかに「作り物を見せられている感」が否めないところです。それを承知で、邦画の世界を楽しんでいるワケですが、こういった商業映画と自主制作映画のはざ間に位置するような映画を見ると、なんとなく、ホッとすることがあります。

 「隠し砦」は、今リメイクで話題になっている、あの映画のタイトルへのオマージュでしょうか? その設定自体は突飛かなぁ、と最初のうちは思っていたんですが、けっこう現実的な展開に落ち着いてくれて、ちょっと安心しました。このまま隠し砦の世界から抜け出せずに、嵌ってしまったらどうしよう?みたいな不安が、ほんのちょっぴり頭の隅に浮かんだのですが、その考え方は、ある意味商業映画的オチに毒されている証なのかもしれません。

 全体を通して見ると、ありきたりな不幸を設定していながら、その部分はまったく掘り下げがなく、ドラマとして薄っぺらい印象があるのですが、現実の世界の他人の不幸なんて、結局人づてに耳にするだけの、そんな程度の描写で十分なくらい自分にとっては薄っぺらいモノだと思えば、かえってこの映画の表現はリアルなのかも知れません。そういう風に捉えると、ありきたりの不幸、ありふれた高校生活のひとコマ、ドラマチックなようで、軽いノリをどこか抱えている、かといって軽薄なワケじゃなく、真剣に考えている、そういった2人の高校生のリアルな一瞬を切り取った映画なのでしょう。

 出演者が天宮良さん以外、顔に馴染みのない俳優さんばかりで、特に高校生がおそらく同世代の人たちで構成されていたであろう点が、よりリアルな高校生を印象付けていると思います。なんとなく、昔のNHK中学生日記みたいな印象かな?

 見終わった後、なんとなく胸にしみじみとしたモノが残る佳作。

●監督・脚本・撮影:佐藤広一