一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

となり町戦争

私的評価★★★★★★★★★☆

となり町戦争DVD
となり町戦争 [DVD]

 (2006日本)

 「舞坂町は、となり町の森見町と戦争をします。開戦日5月7日、終戦予定日8月31日」---ある日、役場の広報に載った小さなお知らせ。舞坂町に住み、森見町にある小さな旅行代理店に勤める北原(江口洋介さん)は、舞坂町役場の香西(原田知世さん)から、偵察員の辞令が出ていることを告げられ、いつしか見えない戦争に巻き込まれていく。偵察の指令は、初めのうちは、職場までの通勤途上で見聞きしたことをレポートするだけの単純な作業だったが、開戦26日目の深夜新たな辞令が発令され、北原は香西と偽装結婚して森見町に潜入することになる。開戦から30日、香西との不思議な共同生活以外、何も変わらない日常が続く…一体、本当に戦争は行われているのか? 北原の疑問にかかわらず、広報に掲載される戦死者の数だけが、確かに増えていくのだった…。


 となり町との戦争が始まっているのに、何も変わらない日常…それが、私たちが対岸の火事と感じている、今も世界のどこかで行われている戦争に対する実感なのでしょう。設定があまりにシュールなため、開戦30日目までは、一体どういう映画なのかさえ、分かりかねる内容だったのですが、それでも見るものをぐいぐいと引き付ける魅力がある、不思議なお話でした。

 戦闘シーンが描かれなくても、ある日、戦闘に巻き込まれた知人の死という形でリアルに戦争の進行を知る…次第に戦争の恐怖が押し寄せてくるのを感じます。そして極めつけは、昨日まで仲間だと思っていた人が、ある日武器を持って襲ってくるという、理不尽な恐怖! 開戦30日目を境に、後半は不条理な恐怖とサスペンスに包まれて、心臓がキューッと締め付けられるような展開が続きます。江口さんの演技が、とにかく凄い!

 原田さん演じる香西の「業務ですから」という一言で象徴される、杓子定規な行政の仕事の怖さを感じました。初めのうちは、いちいち変な擬音まで入るので、単にお役所気質を揶揄しているだけなのかと勘違いしましたが、そのうち、リアルな戦争の影を感じるようになると、理不尽でもカンタンに取り消しの効かない公権力の発動に対し、背筋の凍る思いを禁じえませんでした。

 原作の結末は、どうなんでしょう? 本作の結末は…ある程度、予想通りでしたが、スッキリしないですねぇ…偽装結婚したふたりが、いつしか本当に魅かれ合うのは分かりますが、そんなささやかな恋にも、ホッとさせられないほど、心がザワザワしてしまいました。一体、どこに救いがあるのか…それは見た者が考えろ、ってことか…。黙っていたことは、認めたのと同じこと、それが民主主義…そんな恐ろしい現実を直視せよ、ってことなのかな?

●監督:渡辺謙作 ●原作:三崎亜記(小説「となり町戦争」)