映画『聲の形』
私的評価★★★★★★★★★★
(2016日本)
伝えたい〝こえ〟がある。聞きたい〝こえ〟がある。
ガキ大将だった小学6年生の石田将也(声:松岡茉優さん)は、転校生の少女、西宮硝子(声:早見沙織さん)へ無邪気な好奇心を持つ。
「いい奴ぶってんじゃねーよ。」
自分の想いを伝えられないふたりはすれ違い、分かり合えないまま、ある日硝子は転校してしまう。
やがて五年の時を経て、別々の場所で高校生へと成長したふたり。
あの日以来、伝えたい想いを内に抱えていた将也(声:入野自由さん)は硝子のもとを訪れる。
「俺と西宮、友達になれるかな?」
再会したふたりは、今まで距離を置いていた同級生たちに会いに行く。
止まっていた時間が少しずつ動きだし、ふたりの世界は変わっていったように見えたが――。(Blu-rayパッケージ「STORY」から引用)
小学5年生のころ、ボクは同級生たちより少し早く思春期を迎え、クラスで浮いた存在になりかけていて、学校に行きづらさを感じ始めていた。6年生の春、病気で1週間ばかり入院したことをきっかけに、ついに学校に行けなくなってしまった。毎朝、玄関まで行くのだが、靴を履いて立ち上がると急にどうしようもなくお腹が痛くなり、ドアノブに手をかけられない日々を繰り返していた。1ヶ月ばかり休んだあと、クラス全員からの手紙を受け取るという屈辱を味わい、おそらく仕方なく学校に戻ったように思うのだが、一度クラスで浮いてしまった身が落ち着くはずもなく、卒業するまで居場所のないまま、ちょっとした体調不良で休みがちになりながらも、登校し続けた。
もちろん、クラスメイトに心を開けなかった自分もあった。しかし、幼い思考しかできなかった当時は、クラス中から汚いモノを見るような目つきで見られている気がして(実際、そういう態度を見せる女子も数人いた)、ハブられてるとしか感じられないでいた。そんな状況はその後、中学3年間も続いた(何せ、小中持ち上がりの田舎だったモンで)。
そんな鬱屈した思春期を過ごした自分は、その後も決して素直に感情を表に出せる人間にはなれずに、この歳まで過ごしている。
自分のことが、好きになれないまま、大人になった。
自分のことを、なんとか好きとも嫌いとも気にせずにすむ歳になったときには、他人に対してほぼ関心を持てなくなっていた。
だから、友だちはいない。
基本、アニメを見ないボクが、たまたまEテレで観たこの作品で、どうしようもなく胸を震わせられたのは、今年の初めだったか。
以来、けっこう繰り返し観ている。
高校3年生の将也を取り巻く登場人物の設定が、生々しすぎて、胸を締め付けられる。ガラスのハートにビリビリと響いて、ヒビが入りそうだ。
みんな繊細だったり、自分の気持ちに素直だったり、それが時にとても残酷だったり、時にとても優しかったり……。
たぶん、ボクは川井さん(声:潘めぐみさん)が嫌いだ。ガッツリ自分を守って他人を悪意なく攻撃するところが、嫌いだ。
たぶん、ボクは真柴くん(声:豊永利行)が嫌いだ。どこか高いところから振りかざす正義感が、嫌いだ。
たぶん、ボクは植野さん(声:金子有希さん)が嫌いだ。不器用で素直になれないところが似ているから、嫌いだ。
たぶん、ボクは佐原さん(声:石川由依さん)が嫌いだ。つらくなって逃げ出してしまう弱さが共感できる分、嫌いだ。
たぶん、ボクは永束くん(声:小野賢章さん)が嫌いだ。卑屈さの裏返しの馴れ馴れしさが、嫌いだ。
たぶん、ボクは将也と硝子が嫌いだ。自分を肯定できないところが、あまりにも過去の自分を見ているようで痛々しくて、嫌いだ。
でも……。
こんな歳まで引きずってきた、自分自身の貧しい価値観を壊されてしまう怖さを感じる映画。
胸が苦しくなって、涙が止まらない。
あふれる涙で、ハートがあったかくなっていくのを感じる。
自分自身を好きでありたい。みんなを愛おしく感じていたい。
鑑賞後の余韻。
ココロが静かに動き出す。
●監督:山田尚子 ●脚本:吉田玲子 ●原作:大今良時(コミック『聲の形』講談社コミックス刊) ●アニメーション制作:京都アニメーション