一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

風の電話

私的評価★★★★★★★★★☆

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映画『風の電話』公式サイトより引用

 (2020日本)


あの丘にある<風の電話>へ、
天国に繋がるただ一つの電話へ、
今日もまた人々が訪れる。

 17歳の高校生ハル(モトーラ世理奈さん)は、東日本大震災で家族を失い、広島に住む伯母、広子(渡辺真起子さん)の家に身を寄せている。心に深い傷を抱えながらも、常に寄り添ってくれる広子のおかげで、日常を過ごすことができたハルだったが、ある日、学校から帰ると広子が部屋で倒れていた。自分の周りの人が全ていなくなる不安に駆られたハルは、あの日以来、一度も帰っていない故郷の大槌町へ向かう。広島から岩手までの長い旅の途中、彼女の目にはどんな景色が映っていくのだろうか―。憔悴して道端に倒れていたところを助けてくれた公平(三浦友和さん)、今も福島に暮らし被災した時の話を聞かせてくれた今田(西田敏行さん)。様々な人と出会い、食事をふるまわれ、抱きしめられ、「生きろ」と励まされるハル。道中で出会った福島の元原発作業員の森尾(西島秀俊さん)と共に旅は続いていき…。そして、ハルは導かれるように、故郷にある<風の電話>へと歩みを進める。家族と「もう一度、話したい」その想いを胸に―。
(映画『風の電話』公式サイト「ストーリー」より引用)

www.kazenodenwa.com



 2011年3月11日、両親と幼い弟を津波にさらわれた小学生の少女が、17歳になった春、ふるさと岩手県大槌町へと旅立つ。静かに、切々と胸に迫る、鎮魂のロードムービー


 モトーラ世理奈さんの、胸を掻きむしられるほど、グッとくる迫真の慟哭に、魂が共鳴し、打ちのめされる。



 なんで呉市から始まるんだろうと思ったら、ここでも被災した場所を映し出してた。
 一昨年2018年夏の〝西日本豪雨〟のときに、山が崩れて家屋が流された生々しい傷痕をそのまま映していて、驚いた。

 思いつめて大槌町に帰ろうとしたものの、自分の周りから大切な人たちが消えてしまう不安を、さらに煽るような豪雨災害の爪痕に取り囲まれたハルは、嘆きの叫びをあげてその場に倒れ込んでしまい、通りかかった公平(三浦友和さん)に助け起こされる。
 彼の家に招かれたハルは、そこで出会った彼の母から、彼女の幼いころの思い出話を聞かされる。
 6歳のころ、親戚が原爆で亡くなったとき、無邪気に『骨箱の中の骨を見たい』と駄々をこねて中を見せてもらったら、ボタンが一つしか入っていなくて、さらに残念がってグズってしまったことを、認知症を患った今も思い出しては、深く後悔していると告げる老母。



 ヒッチハイクで拾ってくれたのは、身重の女性(山本未來さん)とその弟。
 やがて生まれてくる彼女の娘に、父親はいないと言う。
 40歳超えての高齢出産を周りから案じられたが、産む決心をした。
 お腹の上に手のひらを当て、確かに息づく新しい命の動きに微笑むハル。



 夜のパーキングエリアのベンチで、ひとりパンをかじるハルを、通りかかった森尾(西島秀俊さん)が拾い、二人は車で埼玉へと向かう。
 福島第1原発で作業員をしていた森尾は、震災のときボランティアで世話になったクルド人の男性を訪ねるところだった。
 しかし、男性は、入国管理局に身柄を拘束され、埼玉に滞在している妻と息子にも自由に面会できない境遇におかれていた。
 ハルは、日本の高校に通うクルド人女性の話を聞き、故国トルコにも帰ることができない彼女が、日本語が喋れないために満足に医療も受けられない同胞たちのために、日本で看護師になることを決意したことを聞かされる。



 福島、誰も住む者のいない森尾の自宅。
 そこで、ハルは、失った家族の幻想に遭遇する。
 愛しくて、待ち焦がれた母(石橋けいさん)の背中を抱きしめる。
 幼い弟とは、ボール遊びに興じる。
 やがて、赤いボールは土にまみれ、すっかり空気が抜けてへしゃげた形に戻り、ハルは現実に引き戻される。



 福島で、偶然、同級生の母親に遭遇するハル。
 その同級生は、津波が押し寄せてきたとき、手をつないで一緒に逃げていたのに、いつの間にかつないだ手が解けてしまい、以来、消息不明のままだった。
 涙をこぼしながら謝るハル。
 母親も涙をこぼしながら、ハルを抱きしめた。





 大切な人を失った家族もある。
 大切な命を授かった家族もある。
 大切な人を待ち続けている家族もある。



 死にたくなるほどの孤独に苛まれることもある。
 森尾は、ハルが死んだら、誰が両親を思い出してくれるのかと、ハルに投げかける。



 誰も、失った大切な人への思いを、容易に断ち切って生きることなんて、できない。
 できることなら、もう一度、失った大切な人に会いたい。
 もう一度、声を聞きたい。
 話をしたい。



 <風の電話>に立ち寄る何万人もの、実在する人々。
 彼ら、彼女らが、そこから希望を見いだして、明日を生きてくれていることを、信じ、願わずにはいられない。



●監督:諏訪敦彦 ●脚本:狗飼恭子諏訪敦彦 ●音楽:世武裕子