一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

静かな雨

私的評価★★★★★★★★☆☆

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『静かな雨』公式 (@A_quiet_rain) | Twitterより引用
『静かな雨』公式 (@A_quiet_rain) | Twitter

 (2020日本)


 たとえ記憶が消えてしまっても、ふたりの世界は少しずつ重なりゆく
 大学の研究室で働く、足を引き摺る行助(仲野太賀さん)は、“たいやき屋”を営むこよみ(衛藤美彩さん)と出会う。
 だがほどなく、こよみは事故に遭い、新しい記憶を短時間しか留めておけなくなってしまう。
 こよみが明日になったら忘れてしまう今日という一日、また一日を、彼女と共に生きようと決意する行助。
 絶望と背中合わせの希望に彩られたふたりの日々が始まった・・・。
(映画『静かな雨』公式サイト「STORY」より引用)

kiguu-shizukana-ame.com



 珍しく、アスペクト比4:3のスクリーンサイズ。
 自然光を使った、やわらかい画像は、人の輪郭、ディテールをわざと際立たせず、自然な陰影の中で暮らす市井の人々の日常を映し出している、ドキュメンタリー映画のような風合いに思えた。


 事故のシーンは出てこない。
 なので、必要以上に動悸が激しくなるような演出は、皆無と言っていい。
 タイトルどおり、実に静かな映画。


 行助は、考古学研究室に勤務しているらしい。
 教授役のでんでんさんが言う。
 『考古学では、人の記憶は扱わない。60年間毎日書き続けた日記を燃やしてしまった人の記憶は、いったいどこへ行ってしまうのか?』
って訊かれても…。


 ふたりが同じ場所に居合わせて、同じ行動をしても、同じ記憶を共有しているとは限らない。
 ふたりの世界は、違うから。
 でも、ふたりが同じ場所に居合わせて、同じ行動をすることで、ふたりの世界は、確かに少しずつ重なっていくように思える。

 人と人とのつながりに、確かなことなんて、何もないのかも知れない。
 だけど、瞬間でも、愛しいと思ったことが、間違いではないと信じていたい。
 だから、不安なことも、面倒くさいことも、すべてひっくるめて、記憶を共有していたい、そんな幻想を抱き続け、愛しい人と、同じ場所に居合わせ、同じ行動をし、記憶を重ねようと、毎日を過ごしていく。



 それが、幸せなんだろう。



●監督:中川龍太郎 ●脚本:梅原英司 中川龍太郎 ●原作:宮下奈都(小説『静かな雨』/文春文庫刊)