一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

つつんで、ひらいて

私的評価★★★★★★★★★☆

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映画『つつんで、ひらいて』公式サイトより引用

 (2020日本)


「読者が思わず手に取る美しい本」が生まれる、その舞台裏へ

 
 たとえば、本屋で平積みになった新刊本を手に取るとき。それも必ずしも自分のお気に入りの作家のものではない本にふれるとき。あなたを「動かしている」ものは何だろう。
 それは本の装幀かもしれない。

 菊地信義。空前のベストセラーとなった俵万智「サラダ記念日」をはじめ大江健三郎古井由吉浅田次郎平野啓一郎金原ひとみら1万5千冊以上もの本を手掛け、40年以上にわたり日本のブックデザイン界をリードしてきた稀代の装幀家です。本作は、美しく刺激的な本づくりで多くの読者を魅了し、作家たちに愛されてきた菊地の仕事を通して“本をつくること”を見つめた、おそらく世界初のブックデザイン・ドキュメンタリー。
(映画『つつんで、ひらいて』公式サイト「映画紹介」より引用)

www.magichour.co.jp


 本の装幀家の仕事を通して、彼らの生きざまを教えられるドキュメンタリー映画

 押し付けがましくはないんだけど、長らく装幀に携わって、古希も過ぎておれば、自然と言葉があふれてくる。

 〝デザイン〟を日本語で表すなら、〝設計〟じゃなくて〝拵える〟、〝こさえる〟、誰かのために拵えること。
 誰か=他者との関係性なくして、人間も存在しえない。

 紙と鉛筆からタイポグラフィが起こされ、書体、配置、色、紙質、紙の表面加工の仕方、印刷の仕方、製本の仕上げ方、本の装幀に対するありとあらゆる〝こだわり〟を見せていただき、久々に未知なるモノへの好奇心を掻き立てられ、興奮しました。


 この映画を観れば、人々が紙の本に惹かれる理由が分かります。リーダーのプラットフォームによって、紙面の表記が変化してしまう〝電子書籍〟の、なんと味気ないこと^^;

 帰ったら、手持ちの書籍の装幀家を確かめてみようと思いました。



[2020.02.18追記]
 菊地さんが、『言葉は思ったとおりには書けないし、それがさらに受け取る側(読み手)の解釈によって異なる意味に捉えられてしまうから、言葉は文字になったあとは、誰のものでもない』みたいなことを、笑いながら、さらっとおっしゃったんですが、日ごろこうしてモノを書くことに時間を費やす自分のジレンマを、見事に言い当てられた気がして、『あぁ、そうか。うまく書こうなんて思って何度か書き直したところで、思いのすべてを書き記すことなんて、そもそも無理なことだったんだな』と自分なりの解釈をしてみたところで、『やはり言葉は自分のものでも誰かのものでもないのかぁ』みたいな感慨に耽ってしまった次第です。


[2020.02.29追記]
 この映画を観た翌日の2月18日の朝、作家の古井由吉さんが亡くなられていたことが昨日28日の朝刊に載っていました。古井さんのお作は読んだことがないのですが、この映画で菊池さんが装禎する本の作家として登場されていたことに、何がしかのご縁を感じずにはいられませんでした。謹んでご冥福をお祈り申し上げます。



●監督・編集・撮影:広瀬奈々子 ●音楽:ゲイリー芦屋