Away
私的評価★★★★★★★★★☆
(2019ラトビア)
進め、道なき道を。
飛行機事故でたった一人生きのびた少年は、
森で地図を見つけ、
オートバイで島を駆け抜ける。<黒い影>から逃れて、小鳥とともに。
(映画『Away』公式サイト「STORY」より引用)
away-movie.jp
26歳のラトビアの青年が、すべて一人で制作した長編アニメーション映画。
劇場で予告編を見て、包み込まれるような美しい映像を目の当たりにし、ぜひ観たいと思っていた作品だ。
飛行機事故でたった一人だけ生き残り、無人島にたどりついた青年のサバイバル譚。
それ自体は、他のメディアでも目にするような、ありふれた設定かも知れない。
しかし、作者のギンツ・ジルバロディスさんは、とてもピュアな感覚で〝生と死〟を描いていた。
人の営みが絶えて久しく、自然に還されたような広大な島。
圧倒的なスケールで目の前に広がる、厳しくも美しい自然。
その中をひた走る、あまりにも小さな一台のバイク。
その、比べるべくもない絶望的なコントラストから溢れ出す、絶対的なAway感。
セリフは一切無くとも、彼の目に見えるモノ、耳に聴こえるモノ、すべての感情を押し殺したように気丈に振る舞う彼の表情や仕種から、彼の彷徨える心の叫びが、画面の奥から聞こえてくるようだ。
そして、どこまでも美しく目の前に広がる世界に、一瞬にして心を奪われたボク自身も、いつの間にか彼と同調して画面の中を彷徨うのだ。
黒く大きな影に包まれた謎の巨人の姿におののき、不安に駆られてたどりついた、きれいな泉のほとり。
果実を取ろうと羽をバタつかせていた黄色い鳥のヒナ。
青年が齧りかけの果実を与えると、そのヒナが、旅のお供に。
シンプルな造形ながら、とても愛らしいキャラクター。
旅は道連れ、世は情け。
彼の鳥の存在が無かったら、絶望感ばかりが先だって、とても美しい画面を楽しむことなどできなかったことだろう。
青年は、この泉のほとりで旅の仲間と古びたバイクを見つけ、走り出す。
心に秘めた、わずかな〝希望〟とともに。
青年を追いかける、謎の巨人。
黒く大きな影に包まれた異様な姿は、静かだけれど絶望的な深さで不安感を煽る。
影に取り込まれた動物がぐったりと息絶える様子を見ると、飛行機事故で亡くなった大勢の魂が集まり、死神のような存在として具現化したモノなのかも知れない。
それは、〝大自然の中の孤独な死〟を意識した青年にしか見えない、虚像なのか?
それとも——?
とにかく、青年は座して死を待つより、死から逃れるべく、ただただひた向きに、大自然の中を走り抜けるのみ。
そして、孤独な死から逃れる冒険物語の幕切れ——
ボクのほほを熱く流れ落ちる、安堵の涙。
良かった。まだ、ボクはつながっている。
確かに、つながっていたんだ!
シンプルだけど、ステキな余韻の残る終演。
やはり、セリフは要らない。
観た人の心の中に浮かんだ言葉が、この物語のすべてだ。
【ちょっと愚痴りたい】
ところでさ。一端幕を閉じた本編のあとに、取って付けたように〝日本公開版のエンディング〟が流れたのよ。ガチャガチャうるさいロックの響きに日本語の歌声載せて、映画のダイジェスト映像流すって、どんだけオリジナル作品を侮辱してんのか。せっかく〝セリフ無し〟で全世界共通に理解し合える〝魂のアニメ作品〟を制作したのに、コンセプトも雰囲気もぶち壊しじゃんかよ。あれ、言ゅうたらただのMVだよね。YoutubeにもUPされてたけど、プロモーション的に、それだけで良かったんじゃないん? 単品なら別にイイMVだと思うよ。でもさ。なんか、日本人の広告屋かなんか知らんが、つまらんことしよったよなぁって、猛烈に怒ってます。
私的評価は、原作者のギンツ・ジルバロディスさんが編集した本編までの★です。エンディング含めてだったら★3つしかやらない。
●監督・脚本・アニメーション制作:Gints Zilbalodis ギンツ・ジルバロディス