一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

夏、至るころ

私的評価★★★★★★★★☆☆

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映画『夏、至るころ』公式サイトより引用

 (2021日本)

福岡県田川市を舞台に繰り広げられる
幼なじみの少年たちと、不思議な少女のひと夏の胸騒ぎ

 翔(しょう/倉 悠貴さん)と泰我(たいが/石内呂依さん)は高校最後の夏を迎えていた。二人は幼い頃から祭りの太鼓をたたいてきた。だが、泰我が突然、受験勉強に専念するから太鼓をやめると言い出す。ずっと一緒だと思っていた翔は急に立ちすくんでしまう。自分はどうしたらよいのか、わからない……。

 息子の将来を気にかける父(安部賢一さん)と母(杉野希妃さん)、やさしい祖父(リリー・フランキーさん)と祖母(原 日出子さん)、かわいい弟(後藤成貴さん)。あたたかい家族に囲まれると、さらに焦りが増してくる翔。ある日、祖父のお使いでペットショップを訪れた翔は、ギターを持った不思議な少女・都(みやこ/さいとう なり さん)と出会う。彼女は音楽をあきらめて東京から故郷に戻ってきていた……。

(映画『夏、至るころ』公式サイト「STORY」より引用)
www.natsu-itarukoro.jp


 なんか知らん、夏はあまねく生命の飛躍する季節だから、人間の子どもも見違えるほど成長するわいね。
 てなことを、山で勤務してた頃、漠然と思ってたね。
 ま、そこで言う子どもは、概ね小学校高学年から中学生までの、フツーに成長期の子たちだから、ってのもあるけど、身体的な成長じゃなくって、たかだか数日のキャンプ生活を経験するだけで、すっかり逞しく、頼もしく、ココロが成長したね、って間近で見てて感じられた経験をたくさんしてきた、ってワケです。

 子どもたちの一夏の経験を通して、彼らの心の成長を描くようなプロットの映画はごまんとあるし、若い女優さんの初監督作品ってだけで、ついつい色眼鏡で見られがちかとは思うんですが…ローカルテレビ局の深夜枠で新作映画を紹介するスポット番組で、たまたま予告編を観た瞬間から、なんとも言えず画面に惹きつけられてしまい、ぜひとも観たいなぁって思ってたんですよね。で、一週間限定上映ってこともあって、いつもなら一日に何本も観るところを本作だけにターゲットを絞って臨んだ次第。


 まずは、期待を越えてきた…そんなカンジ。

 まず、福岡県田川市というかつて炭鉱で栄えた町の魅力が、ギッシリ詰まってるような美しい画面に惹きつけられます。
 主人公の高校生ふたりが四方山話に興じる、ロープワークで拵えられた巨大なジャングルジムのようなオブジェ。
 2本が1本に見える場所を探り当てたら…都市伝説的なおまじないが残る〝おばけ煙突〟の馴染む風景。
 学校のプール、広い吹き抜けに対座するベンチ。
 シャッターの下りた商店街が、決して死んでいるワケではなさそうに見える気がする、不思議な違和感。

 そう言った舞台装置は、まぁ最低限必要な仕掛けです。


 むしろ、感心したのは次の点。

 こういう映画って、主人公の子どもたちにスポットが当たり過ぎてて、なんか嘘臭いな、って思うことが多いんです。
 それは、大抵の場合、テーマが子どもたちだけの問題になってて、実写映画で実際の日常生活の一コマを切り抜いて見せてくれるのに、拾う場面が、学校だったり、子どもたちだけが集う場所だったり、家に帰っても誰と暮らしてるのか不明なまま自室にこもったり…なんか彼らの上っ面だけ描いてみせてるだけ、みたいな印象の作品が多い気がしているんです。
 子どもに関わる周りの人が居なさすぎる…作品によっては、それが必然な状況の子どもも描かれますけど、そうじゃない場合でも、少なくとも一緒に暮らす家族のことぐらいは、もう少し絡んできてもイイんじゃないかと思うときがあって、そんな作品を観てるときには、「なんだか嘘臭いなぁ」てな気持ちになるんですね。

 しかし、この作品は、少なくとも主人公の翔の家族のことが、さり気ないながらも、とても丁寧に描かれてました。
 三世代みんなで囲む家族の夕食の中で、翔のポジションが透けて見えてくると、どうやらちょっと変わり者の祖父のことが好きみたいだな、とか、逆に父親が翔のことを大切に思い過ぎて、どう接したらイイもんか、なんて風に気を遣い過ぎてるんだな、とか…いろいろと家族のことが分かると、翔の感じている漠然とした不安の根っ子が、泰我との関係だけでなく、家族の中での自分の立ち位置みたいな中からも、漠然とした焦燥を感じているんじゃないかな、と分かってくるワケで、主人公・翔の人物像により深みが増す気がしたんですよね。

 そうした視点をいかに大切に視覚化するか、あるいは思い切って切り捨てるか、監督さんのセンスなんでしょうけど、本作の場合、ちゃんと家族を描いたことが、全体的な調和としても、とてもうまくいってたと思います。

 一方で、泰我が太鼓を辞めた理由は唐突な印象でしたね。
 彼の表情も場面場面でしっかり描かれていたので、「何か思うところはありそうだな」と、匂わせてはいましたが、あまりにも情報量が少なくて、「え? そんな理由だったの?」って驚いたの、たぶん翔とおんなじキモチだったかも^^;
 あ、だったら、それはそれでアリな描き方なのか。


 クライマックスで太鼓叩くとか、ありがちだけどね。
 ボクは、リリーさんと原日出子さんの祖父母が映ったシーンが、すっごく印象的だったな。この映画で大好きなシーンの一つだな。


 で、終わりは意外なカタチで。
 ある意味、主人公のキモチに沿うとともに、監督さん自身のことと重ね合わせて、象徴的な終わり方だったのかも。
 その場面にも家族がいて、居心地のいい終わり方だったと思ったな。


●原案・監督:池田エライザ ●脚本:下田悠子 ●音楽:西山宏幸 ●主題歌:崎山蒼志『ただいまと言えば』