一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

朝が来る

私的評価★★★★★★★★☆☆

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映画『朝が来る』公式サイトより引用

 (2020日本)

 一度は子どもを持つことを諦めた栗原清和(井浦 新さん)と佐都子(永作博美さん)の夫婦は「特別養子縁組」という制度を知り、男の子を迎え入れる。それから6年、夫婦は朝斗と名付けた息子(佐藤令旺さん)の成長を見守る幸せな日々を送っていた。ところが突然、朝斗の産みの母親“片倉ひかり”を名乗る女性から、「子どもを返してほしいんです。それが駄目ならお金をください」という電話がかかってくる。当時14歳だったひかり(蒔田彩珠さん)とは一度だけ会ったが、生まれた子どもへの手紙を佐都子に託す、心優しい少女だった。渦巻く疑問の中、訪ねて来た若い女には、あの日のひかりの面影は微塵もなかった。いったい、彼女は何者なのか、何が目的なのか──?

平凡な家族のしあわせを脅かす、
   謎の女からの1本の電話。
 この女はいったい何者なのか──。

(映画『朝が来る』公式サイト「ストーリー」より引用)
asagakuru-movie.jp


 特別養子縁組で赤ちゃんを迎え入れた栗原家の物語と、赤ちゃんを手放さざるを得なかった片倉ひかりの物語を丁寧に描き分け、間に河瀨監督がこだわっていると思われる〝光あふれる森や海などの自然の風景〟を織り込みながら、不妊治療から特別養子縁組を選択した実在の家族やサポートする地域の人々の言葉までもさり気なく取り込んで見せるという、なかなか難しい作品作りに見事に成功した映画だと思います。


 冒頭から、観ている人が混乱しない程度に巧みに時系列を混ぜ込んで見せるドラマの組み方で、特に、ささやかでも子どもを育てることの幸福感を噛みしめている栗原家の目線で進むドラマ部分は、ミステリーな展開が続いて、じわじわと不安感をあおってくれます。
 ところが、ドラマがひかりの物語にシフトすると、一気に脆くて危うい未成年者の転落人生を見せつけられることになり、ドラマの様相はすっかり変わってしまいます。

 果たして、産みの親を名乗る見知らぬ女が誰で、何が目的なのか?
 これ、確かにこのドラマの、肝ですね。
 いろいろ想像するしかないんですが、観進めるうちに、ボクは次第に胸が締め付けられました。



 この映画を観ていると、特別養子縁組で子のやり取りをする2つの家族の間では、幸せの天秤が著しく不公平に傾いでいるのを感じます。

 確かに子どもが欲しくて不妊治療に苦しんだかも知れないけれど、不妊治療を続けることだけでも相当な経済的・肉体的負担を強いられるワケで、それに耐えることができた受け入れ側の家族には、子どもを育てることのできる様々な環境が整っており、あとはありふれた子育ての幸福感を引き受けるだけ、という状況にあると思えます。

 一方の家族(往々にしてパートナーに恵まれない未婚女性)は、望んだ子であろうがなかろうが、あらゆる意味で子どもを育てる環境がなく、周りから『子どもを手放すことが今後の自分の人生にとって最善手である』と勧められるなどして、特別養子縁組によって、腹を痛めて産んだ我が子を失うことになります。
 それが望んだ子であれば、彼女の喪失感は想像を絶します。
 シングルで決して裕福とは言えずとも、子どもを育てる幸せを感じながら暮らせる人は、例え行く末苦しいことがあっても(絶望的に耐え難い負担になってしまうほどの状況に陥ることもあるかも知れませんが)、子どもが心の支えになり得るのでしょうが、子育ての幸せを感じる間もなく子どもを手放してしまったひかりの人生は……。



 映画の最後は、『えっ? そこで終わりにするの?』という不安定な気持ちにさせられたままエンドクレジットが流れます。
 しかし、監督が仕掛けた最後の演出に、心が震えて止まらなくなり、明るくなってもすぐに席を立つことができませんでした。
 ずるいにも、ほどがあるよ、河瀨さん^^;



 川谷拓三さんの息子さんの、仁科貴さんを久々に観た気がします。
 ひかりの親戚のおじさん役で短い出番でしたが、見事なまでに無神経な大人っぷりを演じていて、感心しました^^;
 それにしても、アゴのしゃくれ方がお父さんソックリですねぇ。
 歳を重ねて一層似てきた気がします。
 今後もステキな演技を見せてください。応援しています。


[2012.11.11追記]
 ちょうど、嬰児殺害遺棄事件のニュースが立て続けにあったので、自身の浅はかな感想に追記します。
 望まれない命なんて、それだけでも悲しくてしかたないのに、生まれて間もなく命を絶たれるなんて……。
 そんな選択をしなくても済むよう、特別養子縁組制度を周知させる意義はありますね。


特別養子縁組を扱った映画。名作だと思うけど、残念なことにBlu-ray化されてない。
vgaia.hatenadiary.org

●監督・脚本・撮影:河瀨直美 ●共同脚本:髙橋 泉 ●原作:辻村深月(小説『朝が来る』/文春文庫刊)