一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

おもいで写眞

私的評価★★★★★★★★☆☆

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映画『おもいで写眞』公式サイトより引用

 (2021日本)
 
「素敵な思い出のある場所で写真を撮ります」
遺影の代わりに結子が企画した<思い出写真>が大人気に。
それは、明日からが楽しくなる<魔法のような写真>だった──

  たった一人の家族だった祖母(原日出子さん)が亡くなり、メイクアップアーティストになる夢にも破れ、東京から富山へと帰ってきた音更結子(深川麻衣さん)。祖母の遺影がピンボケだったことに悔しい思いをした結子は、町役場で働く幼なじみの星野一郎(高良健吾さん)から頼まれた、お年寄りの遺影写真を撮る仕事を引き受ける。初めは皆「縁起でもない」と嫌がったが、思い出の場所で写真を撮るという企画に変えると、たちまち人気を呼ぶ。ところが、あるひとの思い出が嘘だったとわかり、その後も謎に包まれた夫婦や、過去の秘密を抱えた男性からの依頼が舞い込む。怒って笑って時に涙しながら成長してゆく結子の毎日は、想像もしなかったドラマを奏でてゆく──。

(映画『おもいで写眞』公式サイト「STORY」より引用)
omoide-movie.com


 『大コメ騒動』に続いて、これもオール富山ロケかぁ。

 思い出の場所で改まった写真を撮る〝おもいで写真〟という切り口で〝遺影を撮影〟するというのは、なかなか興味深い話だと思いましたが、『感謝離 ずっと一緒に』みたいな終活をテーマにした作品のようで、むしろ主人公の若い女性の心の成長(と、ちょっぴり恋愛模様)を描いてる映画、という見方の方がしっくりくる作品でした。


 高齢者社会の縮図のような、孤独なお年寄りばかりが住む古びた集合住宅。
 いくつもの棟が集まる一帯は、昭和の高度経済成長期に一斉に建てられたものでしょうか。
 その階段を精力的に昇り降りしながら、一軒一軒丁寧にチラシを持って回る主人公の女性。
 お年寄りにとって、急な階段しかない団地住まいは、外出する気持ちを折るには十分だよなぁ……なんて思いが脳裏をよぎります。
 呼び鈴を鳴らしても、誰も出て来ないのは、人に会うのが面倒くさいのか、単に耳が遠いのか、はたまた誰も住んでいないのか、もしかしたら気を失って倒れているのではないか、と、さまざまな状況を一気に想像させて、妙に胸が騒ぎます。
 中には呼び鈴が鳴らないお宅もあるし、民生委員さんもそういった居住確認をし辛い世帯が多すぎて、全てを把握していないと聞くし、デイサービス施設職員の方がまだ状況を把握している世帯が多いかも、なんて話もあるし。
 団地の1階にこしらえられた居住者同士の交流カフェも、ガランとして薄暗い。
 居住者がほとんど目につかず、各部屋からの生活音もほとんど耳にできない。

 文字に書きあげると、ずいぶん寂しいゴーストタウンのようなイメージだけど、不思議とそこまで寂しい雰囲気を感じないのは、常にセカセカと小走りしている主人公の足取りが、精力的で若々しく映るからなのかねぇ?

 戸別訪問して、いざ撮影を呼びかけると、遺影どころか葬儀もいらないと言うような独り住まいのお年寄りたち。
 そこそこの衝突もあるんですが、何か事が起こっても、傷の浅いうちに早期解決が続く展開は、なんか深みに欠けるストーリーのような気もしました。しかし、そこで深追いしないのが、リアルに薄ぅ~い人間関係しかない現代の地域社会のあり様なのかも、と思うと、それはそれで切ない感じもして、なかなか難しいテーマなんだなぁ、と感じます。


 主人公は、人生こじらせ気味の29歳の女性・結子。
 東京でメークアップの仕事に就いたもののモノにできず、自信喪失して転職していたところに、育ての親でもある祖母の訃報が届き、夢破れて都落ちするように故郷の富山に帰ってきます。
 祖母の死に目に立ち会えなかった悔やみで打ちひしがれたまま告別式に臨むと、追い打ちをかけるかのように、祖母の遺影が、ピンボケの1枚しか無かったことにショックを受け悲しみに暮れます。祖母は写真館を最後まで一人で切り盛りしていたというのに……。

 そんな結子が、町役場で働く幼馴染の一郎の企画した事業に協力し、お年寄りの遺影を撮影することになります。
 しかし、幼いころに母に見捨てられ、祖母や母が自分に言い続けていた言葉がすべて嘘だったと思い込んでいた結子は、何より嘘を吐くことが赦せず、おもいで写真を依頼するお年寄りの〝思い出の齟齬〟を一方的に悪意のある嘘だと決めつけ、たびたび写真を撮ることを拒むことに……。それでも、一郎の真っすぐで粘り強い取り成しや、亡くなった祖母の代わりのように結子を支えることになった団地住まいの山岸和子(吉行和子さん)らの優しい励ましの言葉に力を得て、結子は何度も立ち直ります。

 ここ、この映画のポイントですね。
 とにかく〝嘘が赦せない〟と、頑なに嘘を吐いた(と思われる)相手を拒む結子の気持ちに共感できるかどうか。

 嘘も方便、とか、相手を思いやるが故のやむを得ない嘘、だとか、嘘が絶対悪ではないことは、日常的には理解されていることだとは思うのです。
 また、長い人生経験の中で、過去の思い出が他の経験と混ざり合って、いつの間にか書き換えられてしまうことも、歳を取れば、事あるごとに痛感する事実です。本人にとっては、嘘を吐いたつもりはない、なんてことも、ままあります。
 そういったことは、相手に人を騙すとか人を欺くとかいう意図があれば、状況によっては非難に値することもあるワケですが、結子の場合は、相手の意図は二の次、嘘を吐いたという事実だけが非難すべき行為と受け止めてしまうワケです。
 それはそれで、彼女の方にも、何かしらそういう風に受け止めてしまう事情があるのだろう、と思って受け入れられるかどうか?
 日常生活で身近にいたら、そこそこ面倒臭いなぁ、なんて思っちゃいますが、本作の主人公のような場合だと、皆さんは、どういう印象を持たれるんですかね?
 ボクは面倒臭くても、その人にイイところを見出せるのなら、一郎みたいに受け入れてしまうかな?

 そんなことを思いながら、泣いて、怒って、笑って、落ち込んで…目まぐるしく変わる感情を露わにしながらも、お年寄りたちの思い出に寄り添い、奮闘している結子を見て、「深川麻衣さんの演技、どんどん良くなってるんじゃない?」なんてことも考えてました。
 彼女は、目立つ顔立ちや容姿ではないかも知れないけれど、一度その憎めない笑顔を湛えた、等身大の女性の演技を観たら、なんか気になってしまう女優さんなんです。
 本日夜10時、テレビ東京系列で放映してた『アノニマス』第2話にもメインゲストで出演していて、ネット上で謂われなき誹謗中傷に晒され、傷めつけられる被害者役が凄くハマってて、ドキドキしながら観つつも、なんだか嬉しくなってしまいました。
 今後も、注目したいと思います。


 ところで。
 どうでもイイところだとは思うんだけど、なんでタイトル『おもいで写〝眞〟』なんだろね?
 おばあちゃんが最後まで守ってた昭和レトロな写真館をイメージしつつ、大正~昭和~平成~令和を生き抜いてきた高齢者の皆さんをイメージしてのことだったとしても、それならそれで〝寫眞〟じゃないんかなぁ?なんてことを思いつつ、一字ずつ変換しないと表示できなかったタイトルに対する、取るに足らないちっぽけな恨みをここで外に放ってみる^^;


深川麻衣さん主演作品。これもイイ作品だった。
vgaia.hatenadiary.org
熊澤尚人監督は、『ニライカナイからの手紙』の方でしたか。めっちゃイイ作品だったな。
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●監督・脚本:熊澤尚人 ●脚本:まなべゆきこ ●音楽:安川午朗 ●原作:熊澤尚人(小説『おもいで写眞』/幻冬文庫) ●主題歌:安田レイ『amber』(ソニー・ミュージックレーベルズ