一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

砕け散るところを見せてあげる

私的評価★★★★★★★★☆☆

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映画『砕け散るところを見せてあげる』公式サイトより引用

 (2021日本)

〈常識を覆す、衝撃の愛の物語〉

 平凡な日々を送る濱田清澄(中川大志さん)はある日、学年一の嫌われ者と呼ばれる孤独な少女・蔵本玻璃(石井杏奈さん)に出会う。
 玻璃は救いの手を差し伸べてくれる清澄に徐々に心を開くようになるが、彼女には誰にも言えない秘密があった…。その秘密に気づき始めた清澄に<恐るべき危険>が迫り、友人の田丸(井之脇 海さん)や尾崎姉妹(姉:松井愛莉さん/妹:清原果耶さん)も心配する中、物語は予測できない衝撃の展開を見せていく。
 この物語は、ラブストーリーなのか、サスペンスなのか…。ラストは世代を超えた壮大な愛に包まれる。

(映画『砕け散るところを見せてあげる』公式サイト「STORY」より引用)
kudakechiru.jp


 ネタバレなしに書くのは難しいかなぁ…?
 でも、できるだけ頑張ってみる。


 高校一年生の玻璃は、まるでボクが小学生時代に体験したようなイジメに遭っていました。そう、幼稚だけど陰湿なイジメ。
 それに気づいて、放っておけなかったのが三年生の清澄。
 最初、助けてくれた清澄に対して、野良猫のように金切り声をあげて威嚇して走り出した玻璃が、粘り強く助けの手を差し伸べる清澄に次第に心を開いていくのは、まぁラブストーリー的展開としてはありがちなのでしょうが、この物語は、たぶん、ラブストーリーじゃないのでしょう。
 あこの後はサスペンスに満ちた展開を見せ、大いに心をかき乱されるのですが、ネタバレは慎みます。


 高校時代の清澄と玻璃のエピソードだけ切り取ったら、すごく良かったと思います。
 ていねいに、初々しい恋愛模様を紡いで見せてくれていた、そう思います。

 しかし、その後、清澄が高校を卒業して以降の時代の展開については、どれほどの時間が経ったかも分からず、案外時代の節目をバシッと決めずにずるずるにつながったまま時間を進められたカンジに思えて、違和感を覚えました。
 高校時代の濃密な描き方に比べて、その後の時代の描き方が極めてダイジェスト的というか、ほぼ清澄の回想的独白のみで進められたこともあって、観ている自分の感情が画面の中の展開に追いついていけないような、モヤッとした感情にじわじわと支配されてしまったのです。しかも、終いには誰の回想なのかも曖昧なカンジになってしまって…。

 ボクが女性で、玻璃だったら、違った印象を持つんでしょうか? 分かりません。想像すべくもありません。
 そして、ボクが玻璃だったら…たぶん、長らく鬱を患った挙句、救いようのない人生を送ったのではないか、そんな風に思えたんですが……玻璃は違ったようです。

 一度しかない人生、事件・事故・災害等の傷をいつまでも引きずるのはもったいないな、というのが一般的なボクの考え方です。
 固執してしまわずにはいられない気持ちも理解はしますが、いつかどこかで自分自身の人生に向き合って、なんとか前を向いてほしい…まぁ、希望的な感情です。希望的な、というのは、そうは言っても、ずっと心の奥底にしまい込んだまま、何も無かったかのようにその後の人生を歩むことは、実際には難しいだろうな、とも思っているからです。

 だから、玻璃の、屈託のない笑顔は、どれほどの感情を飲み込んだ末にたどりついたモノなのか──。

 そこがとても大事だと思うのですが、画面からは十分に伝わってこない──ラッシュのように流れ去る回想映像の中では、感慨に浸り、玻璃の内心を深く慮るだけの時間的なゆとりが足りなかった…観終えたあとに、そう思ってしまったのです。

 おそらく、ネタバレを隠したいが故の、小賢しい演出のせいではないかと。
 冒頭で、ネタバレさせてから回想の高校時代にトリップして見せてくれれば、よりスッキリと感情を高ぶらせてエンディングを迎えられたのではないかと思うんですが、どうでしょうか?
 たぶん、この作品は一回観てネタバレしたあと、二回目に観た方が、より一層感動できるんじゃないか──そんな気がしました。

 イイ作品だけど、ちょっとだけ惜しい。

●監督・脚本・編集:SABU ●音楽:松本淳一 ●主題歌:琉衣『Day Dream~白昼夢~』(LDH Records) ●原作:竹宮ゆゆこ(小説『砕け散るところを見せてあげる』/新潮文庫nex刊)