一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

街の上で

私的評価★★★★★★★★☆☆

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映画『街の上で』公式サイトより引用

 (2021日本)

「誰も見ることはないけど 確かにここに存在してる」

 下北沢の古着屋で働いている荒川青(あお/若葉竜也さん)。
 青は基本的にひとりで行動している。
 たまにライブを見たり、行きつけの古本屋や飲み屋に行ったり。
 口数が多くもなく、少なくもなく。
 ただ生活圏は異常に狭いし、行動範囲も下北沢を出ない。
 事足りてしまうから。
 そんな青の日常生活に、ふと訪れる「自主映画への出演依頼」という非日常、また、いざ出演することにするまでの流れと、出てみたものの、それで何か変わったのかわからない数日間、またその過程で青が出会う女性たちを描いた物語。

(映画『街の上で』公式サイト「STORY」より引用)
machinouede.com

 「誰も見ることはないけど 確かにここに存在してる」って、この映画のこと? ちゃんと見つけて、遠方だったけど、観に行ったよ(^^)


 下北沢──演劇、映画、文藝、藝術、音楽…さまざまなジャンルのクリエイター(の卵)たちを呼び寄せる街。
 何かを成し遂げようと息巻く挑戦者たちの熱気が迸る街。
 そして、何者にもなれずに地縛霊と化した魂の彷徨う街。

 そんな街の片隅に店を構える古着屋。
 そのカウンターで、荒川青は、いつも本を読みながら、店番をしている。
 店を閉めたら、ふらっと弾き語りのライブに立ち寄ったり、狭いカウンターバーで飲んだり、休みの日は、古本屋で物色したあと、カフェ飯に行ってマスターと駄弁ったり。
 彼の日常は、下北沢の街を当てもなくひらひらと漂っているようだ。


 物語にとって、主人公が何かを成し遂げることは、大きな区切りであり、ままあるエピローグでもある。
 今泉力哉さんは、そういう手法で映画を撮っていない、そんな気がする。
 むしろ、成し遂げられなかったことによって生まれる様々な感情や、関係の微妙な変化に寄り添って、物語をつづっているような気がする。

 荒川青は、彼女の〝彼氏〟になれなかった。美大生の卒制映画の〝出演者〟になれなかった。そして恐らく、彼は当初目指していた〝ミュージシャン〟になれなかった。
 〝なれなかった〟のか〝選ばれなかった〟のか?──いずれにしても、彼は喪失感を重ねている。
 そして、失ってなお、彼は舞台を降りきれずに、辺りを漂い続けるのだ。
 本懐を遂げられなかった無念の魂が、地縛霊となって成仏できずにいるように。

 古本屋のバイトの田辺冬子(古川琴音さん)も、選ばれなかった人だ。
 彼女の場合、店の主人に思いを寄せていたのに、彼が突然他界してしまって、まさに置き去りにされたような状況だった。
 時おり、亡き店主を偲ぶように、留守電のアナウンスの声を聴く。
 録音された店主の声は、永遠に変わらない。
 店主はすでにこの世にいないのに、確かにそこに在ったことを穏やかに語る留守電の声。
 しかし、それは、わざわざアプローチしなければ、誰にも気づいてもらえない、ささやかな存在だ。
 その儚さを身をもって知る冬子だから、選ばれずに日の目を見ることのなかった青の出演シーン全カットに対して、学生監督に直接抗議の声をあげたのだろう。

 報われないこと。
 果たせなかった思い。
 でも、それは確かにそこに在った。


 報われなくとも、日常は繰り返す。
 今となっては、そのことが、とても素晴らしいことだと思い知る。


 今泉監督の映画は、エンディングでは終わらない。
 クレジットロールの先に、まだ登場人物たちの日常が続いていくのだ。
 ささやかだけど、興味深い日常の冒険が待っていると思うと、ドキドキする。



 城定イハ(中田青渚さん)は、なかなかズルい。
 おそらく、ほとんど盛り上がらない荒川青の日常の中で、最も胸ときめかされる一夜限りのダイアログだ。
 彼女は、軽妙な関西弁で語りかけ、絶妙な間合いで青の心に詰め寄ってくる。
 いや、映画を観ているボクの心にも詰め寄って来ていた^^;
 男女間の友情を認めるなら、とても居心地のよい友人だと思うけど、ちょっと意地悪なカンジでイジってきそうなところが面倒くさいかもwww



 「朝ドラ出てますよね?」ってのがツボってしまった。
 成田凌さんは今期の朝ドラ『おちょやん』に天海一平役で出てる最中だし、同じく若葉竜也さんも助監督役で出てたし、打ち上げのシーンで顔抜かれた倉悠貴さんもヨシヲ役で出てたし、朝ドラ俳優だらけじゃがねwww



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●監督:今泉力哉 ●脚本:今泉力哉大橋裕之 ●音楽:入江 陽 ●主題歌:ラッキーオールドサン『街の人』(NEW FOLK / Mastard Records)