一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

生きちゃった

私的評価★★★★★★★★★☆

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映画『生きちゃった』公式 (@ikichatta_movie) | Twitterより引用
映画『生きちゃった』公式 (@ikichatta_movie) | Twitter

 (2020日本)

自分の気持ちを素直に余すことなく、
愛する人に伝えることができたら。

 幼馴染の厚久(仲野太賀さん)と武田(若葉竜也さん)。そして奈津美(大島優子さん)。学生時代から3人はいつも一緒に過ごしてきた。そして、ふたりの男はひとりの女性を愛した。30歳になった今、厚久と奈津美は結婚し、5歳の娘(太田結乃さん)がいる。ささやかな暮らし、それなりの生活。
 だがある日、厚久が会社を早退して家に帰ると、奈津美が見知らぬ男(毎熊克哉さん)と肌を重ねていた。その日を境に厚久と奈津美、武田の歪んでいた関係が動き出す。そして待ち構えていたのは壮絶な運命だった。

(映画『生きちゃった』公式サイト「STORY」より引用)
ikichatta.com


 たぶん、ボク自身が、無意識のうちに外に追いやっている世界なんだと思う。
 たぶん、ボク自身の、思い出したくない生い立ちに触れてくる映画だと思う。
 たぶん、ボク自身は、厚久みたいなタイプだと思う。


 不思議な三角関係。
 高校の同級生。
 いつも男子がパピコを買って、それぞれ片割れを彼女にあげる。
 彼女が男子の背中に手をかける一瞬の映像から察するに、高校時代の奈津美は武田が好きだったような気がする。
 なのに、奈津美は厚久と結婚し、子をなし、倹しい3人の暮らしの、一家団欒と思われる時間帯に、当たり前のように武田が一緒にいる。

 たぶん、そういう人間関係って、ボク以外の人間にとっては、別にフツーなことなんだろう。
 ボクの人生には、そう。幼少期から、家に友だちが遊びに来るというシチュエーションが無かった。
 当たり前のように、ボクが友だちの家に遊びに行くということも、ほとんど無かった。

 なので、この映画の登場人物の中で、たぶんボクだけが、思いっきり武田の言動に違和感を覚えてしまっている。 
 なんで、そんなにも厚久と奈津美の関係に、深く立ち入れられるんだろう?
 ラストなんて、凄まじすぎて、置いてかれた気分だったよ。
 どうして、そこまで魂揺すぶられてしまってるの?
 自分自身を、厚久に、厚久と奈津美の関係に、投影してるの?


 一方の厚久の言動は、痛いほど分かる気がする。
 エッジの鋭いナイフのような言葉を突き付けられて、ちゃんと自分の言葉で意思を伝えられる自信ないわ。
 なんか、アナタがそう思うんだったら、そうなんだろう。仕方ないんだろうね。みたいな、一見聞き分けの良い人のようで、さっぱり煮え切ってない、たぶん、サイコーに相手をイラつかせるタイプだと思う。
 同じ土俵に上がって来いよ!と挑発されてるのに、そのテンションに乗っかれない。
 極めて内省的で、自己完結してしまいがちなくせに、本音じゃ全く逆のこと思ってる。

 かつて就職したばかりの青二才の頃、「黙っとるだけじゃあ、損するよ!」と叱責されたことがある。さすがに今はだいぶマシになったとは思うが、根っ子の部分は変わってないと思う。

 そんなことを思い出しながら観ていると、厚久はとことん不幸のどん底に引きずり落とされていくように見えた。
 いったい、どこで間違えたのか?
 いや、そもそも間違いを犯したワケじゃなく、ちゃんと自分の意思を周りに言えなかったせいなのか?
 少なくとも奈津美とのすれ違いは、厚久も思い当たるフシがあったはずだ。
 でも、ちゃんと言えなかった。タイミングを逸した。そんな雰囲気の場じゃなかった。
 情に棹さして流されるの実例を目の当たりにした気分。


 そして奈津美。
 強がって見せるが、本当は気弱な寂しがり屋なのだろうか。
 ボク自身は、けっこう苦手なタイプの女性と感じたが、不安定な女性の飢餓感とでも言うのか、とにかく大島優子さんの演技が、恐ろしいほどキレていたと思う。
 間男を引き入れていた現場を、厚久に見られたところから、抑えていた感情が一気に迸り出て、そこから情緒不安定なほどに、もの凄く激しく感情の振り子が揺らぐさまは、見ていてホントに辛かった。この辺りも、カタチは違えど、ボク自身の幼少期の体験に引っかかるところだからだろう。母親が生活苦に追い詰められるのを見るのは、ホントにしんどい。

 そうね。大島さんの絶叫が、ボクのずたボロのハートに止めを刺したかな。
 もうね。尋常じゃなく魂揺さぶられて、震えが止まらなかったわ。動揺。



 凄いね。
 観終わった後、なんか魂抜かれたような脱力感覚えた。



石井裕也監督の作品。こちらもボク自身が、無意識のうちに外に追いやっている世界が描かれていると思う。
vgaia.hatenadiary.org

●脚本・監督・プロデューサー:石井裕也