一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

きいろいゾウ

私的評価★★★★★★★★★☆

きいろいゾウ
きいろいゾウ [Blu-ray]

 (2013日本)

 奇跡……。奇跡とは、日常ですね。

 妻利愛子=ツマ(宮﨑あおいさん)と、武辜歩=ムコ(向井理さん)は、満月の夜に運命的に出会い、まもなく結婚した。幼いころに孤独な入院生活を送り、空想の中でいつしか木々や動物たちの声を聞くようになったツマと、背中に大きな鳥のタトゥーを刻んだ売れない小説家のムコ、互いに抱える過去と秘密を知らないまま、2人は田舎町で穏やかな新婚生活を送り始めた。だがある日、ムコ当てに差出人のない手紙が届いたときから、2人の関係が揺らぎ出す。(WOWOWの番組内容から引用)


 月明かりが黄色だとは思わなかった。


 ツマは、聞こえてしまうのだな。
 水を浴びてうれしそうに話す、庭の草木の歓喜の声。
 脱走グセのある近所のヤギのしゃべるダジャレ。
 肉っぽい食べ物をせしめに来る、ブル・テリアのおねだりの声。
 オンボロ自動車の陰口を叩く蟻んこの世間話。
 空から帰って来る雨粒の『ただいま』のあいさつ。
 ちょっと長生きしてるソテツの、含蓄のあるありがたいコトバ。

 感受性が強いというだけでない。
 単にメンタルが弱いというのも違う。
 幼い子どものようでもあり。
 ときどき情緒不安定にもなり。
 過去を引きずったまま、温かい繭の中に逃げ込んで、自我を守ろうとしているようでもある。


 一方のムコさんは、日記に書くことで、過去を引きずる自分とツマを慈しむ今の自分との間で、精神のバランスを保とうとしているのか?


 ツマの感情の起伏と表情や仕草、観ている自分までムコさんと一緒に、感情を振り回されてしまうような、宮﨑あおいさんの演技がすごい。
 ほぼ、すっぴん。ココロもすっぴん。
 車の中で、駄々をこねるように感情をバクハツさせる。
 水道の蛇口で、ムコさんのこぶしを傷め続ける。
 次にどんな風に感情をこじらせるのか読めなくて、ドキドキハラハラしてしまう。
 でも、結局、めんどくさくても、愛おしいツマ。
 そして、結局、ツマに一途なムコさん。
 無垢のハートが、傷つきながらも、一所懸命に互いを思いやってもがいてる。
 むき出しの愛情が、ときには刺々しくブスブスと刺さり、ときにはぎゅーっと温かく包み込む。
 夫婦の愛情は、他人から見ると、やっぱり不思議な縁だと思う。

 アレチ(柄本明さん)とセイカ松原智恵子さん)の夫婦愛もステキだ。
 大地(濱田龍臣さん)にツレなくされながらも、ツンデレな感じで彼を追いかける洋子(浅見姫香さん)も可愛い。


 たぶん。
 ツマは、ムコさんが東京に行ったあと、聞こえなくなったと思う。
 ムコさんも、日記を必要としなくなった。
 二人が、やっと互いのすべてを受け入れて、向き合おうとし始めた、ということなのだろう。
 そこまでちゃんとできる夫婦ばかりじゃないと思う。
 ステキな夫婦だ。

 言い方は変かもしれないけど、〝大人の童話〟という印象の映画でした。


 豪華キャストですよねぇ……。

 特に、声だけの出演陣、凄くないですか? 贅沢の極みwww


※宮﨑あおいさんの映画、案外観てなかったです。
vgaia.hatenadiary.org
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●監督:廣木隆一 ●脚本:黒沢久子、片岡翔 ●原作:西加奈子(小説『きいろいゾウ』/小学館刊)